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日本製鉄君津

2024秋を走る・2

【2024秋を走る・2】9月も後半に入りましたが、厳しい記録的猛暑が続いています。また、11月以降のマラソンに備え、本格的な走り込みを開始する季節ですが、ジョギングすることも厳しい状況でしょうか。そんな過酷なコンディションが続く中、日本ブラインドマラソン協会主催の伴走者養成研修会を実施しました。

今回の研修会は千葉県富津市富津公園で行いました。もちろん、同地で研修会を開催するのは初めてですが、強化合宿においては拠点にしている場所でもあります。また、今回の研修会には、アテネ五輪女子マラソン金メダリストで、当協会理事でもある野口みずき氏も駆けつけてくれました。

研修会の内容は、伴走に関する講義や実技指導など多岐にわたり、1泊2日の日程で実施されました。講義では伴走に関するルールはもちろん、視覚障がいに関することなど、かなり深掘りした内容もありました。

私は当協会においては、パラリンピックを目指す強化指定選手をサポートする担当なので、国際ルールは常に意識しています。ところが、国内ルールと国際ルールは似ていますが同じではありません。(詳細は割愛しますが、ダブルスタンダードになっている)。

したがって、いわゆる伴走ロープ(絆)と呼ばれているものも、国内ではロープを輪にしたものが一般的ですが、国際基準ではテザーと呼ばれている手錠型のものが指定されています。しかし、一般的にはほとんど認知されていないことを再確認することができました(国内ルールは伴走ロープでも可)。

続く実技講習においては、伴走の基本的なことからになりました。もちろん、伴走歴の長い方も多く、伴走ロープを持って走ることに対する抵抗感を持っている参加者はほとんどいませんでした。ところが、視覚障がいランナーのフォームや歩調に合わせて走ることが、できていない方が多いことにも少し驚きました。

さて、どんなスポーツもトップを極める「強化」と、底辺を広げていく「普及」の両輪が回らないと、発展していくことはできません。今回のような講習会は普及の意味ではとても重要です。また、各地で普及している伴走クラブなどは、さらに重要で大切な活動になります。

ところが、公式の国際ルールや伴走技術など、一般ランナーの方々は意外と知らない(普及側に情報が伝わっていない)。一方、一般の視覚障がいランナーが「もっと速くなりたい」と、強く思っていても何をどのようにしたら良いかの情報や方法を知ることや、対応できる人材を確保することが意外と難しい(強化側に思いが伝わっていない)。

日本のブラインドマラソンは歴史もあり、強化と普及もそれぞれ発展していますが、両輪をつなぐ軸がとても細いことを、再認識しました。そして、今回のような伴走者養成研修会は強化と普及をつなぐ機会として「もっと力を注いでいかなくては」と、強く感じた次第です。

2024秋を走る・1

【2024秋を走る・1】パリパラは無事に閉幕し、昨日帰国しました。まずは、同大会に関係された様々な方に厚く御礼申し上げます。また、我々のマラソンは大会最終日でしたが、出場した男女4選手全員が無事にゴールすることができました。

男子は、堀越信司選手が7位入賞。女子は、道下美里選手が銅メダル。結果の詳細については割愛しますが、選手たちは力を出し切ってくれました。あらためて、選手たちへのご支援ご協力を惜しみなく注いで頂いた関係者の皆様に重ねて御礼申し上げます。

さて、銅メダルを獲得した道下選手のガイドライナーに対するメダル授与はありません。ルール上、スタートからゴールまで完全に単独伴走をした場合のみ、そのガイドランナーにもメダルが授与されます。

特に、女子選手の場合、男子選手よりも相対的に走力が低くなるので、単独伴走を選択する選手(国)が多い。しかし、各国のガイドランナーを拝見していると「単独伴走で本当に大丈夫かな?」と、思われるガイドランナーが見受けられるのも確かです。

しかし、ガイドランナーは、どんな過酷な状況下に陥っても選手をゴールまで確実に安全に導く役割があります。至極当然のことながら他国選手との駆け引きやペース配分、給水などなど、その役割は多岐にわたります。もちろん、ガイドランナーにかかるプレッシャーや重圧は想像に難くありません(だからこそ選手以上の圧倒的な走力が必須)。

それらを鑑みて、日本チームとしては選手のパフォーマンスを最大限に引き出すため、必ず2人体制を選択しています。つまり、ガイドランナーへのメダル授与は最初から放棄することになるので、その点はガイドランナーも納得した上でのことになります(個人的には2人伴走選択にもメダル授与することを強く望んでいます)。

今回、道下選手のガイドランナーの1人(前半予定)が、体調不良のため本来の調子に届いていませんでした。最終エントリー変更の締切日まで回復を待ちましたが、そのガイドランナーを外し、好調なガイドランナーと入れ替えました。まさに苦渋の選択でした。

果たしてパリパラマラソン当日、道下選手はスタートから4位を独走する苦しい流れに……。しかし、エントリー変更した前半のガイドランナーが、道下選手を好アシスト(4位の単独走になったが、道下選手を設定タイムどおりにキッチリと伴走)。実は、道下選手の後ろを走っていた中国選手は実力者でしたが、この選手の追撃を見事にかわしていたのです。

案の定、後半のガイドランナーにチェンジしたあと、中国チームは焦りからか一気にペースを上げ、道下選手を猛追してきました。しかし、30k以降は選手の方が力尽き、最後はフラフラの状態でゴール(5位でゴール後に失格)。さらに、3位でゴールしたスペイン選手は、そのガイドランナーが後半苦しくなり、最後はガイドランナー自ら潰れて選手が失格に……。その結果、道下選手は銅メダルを獲得。もちろん、道下選手のたゆまぬ努力が引き寄せた「銅メダル」でした。

一方、結果的にはレースの流れを読み間違えた中国のガイドランナー。そもそもの走力が不足していたスペインのガイドランナー。そして、ガイドランナーの人選や走力強化にも力を入れ、盤石の状態で挑んだ日本。ガイドランナーの実力と経験の差が、今大会の銅メダル争いを決着したとも言えるでしょう。

2024夏を走る・14

【2024夏を走る・14】パリパラが開幕しましたが、パリパラマラソンチームは千葉県富津市で最後の調整合宿中です。そして、9月8日がパリパラマラソン当日になります。その当日までに予定しているポイント練習は、あと2回。

さて、パラリンピックに出場する選手たちは、選手村に2週間程度滞在します。しかし、2021年の東京大会はコロナ感染防止対策のため、各選手の出場する競技日程に合わせ、競技当日の数日前に入村し、競技終了後は速やかに退村する方式がとられました。

そして、今回のパリ大会も原則として東京大会と同じ方式です。実は、マラソンはパラリンピック最終日の競技になるので、2016年のリオ大会までは、選手村で約2週間も調整していました(事実上の調整合宿)。

もちろん、現地のコンディションに体調を合わせたり、マラソンコースをじっくりと確認できるなど、選手村に長く滞在するメリットはありました。一方、大会最終日が近づくにつれ、競技を終えた選手や関係者は緊張感も解け、楽しむモードに突入していきます。

そのピークは、パラリンピック最終日の前夜。つまり、マラソン選手たちにとっては、出走前日の夜になります。最も体を休め、良質な睡眠が必要な出走前夜にもかかわらず、選手村はお祭り騒ぎになります。

海外の陽気な選手たちは、国境を越えた仲間たちとギターなどを手に歌ったり踊ったりと、選手村の広場などで大いに盛り上がります。まさにこれこそが真の国際交流、パラリンピックとも言えますが、明日に大勝負を控えているマラソン選手たちにとっては……。

もちろん、今となっては薄れゆく記憶の中に残る「思い出」のひとつですが、パリパラも東京パラのように、「静かな夜」になることを……。そして何よりも、出場する選手たちが最後までケガや故障なく、スタートラインに立てることを祈るばかりです。

2024夏を走る・13

【2024夏を走る・13】パリパラマラソンに向け、最終調整に入っていきます。今月は、北海道北見合宿で最後の40k走を実施。その後は、長野県菅平高原で最後の起伏走を無事に終え、今日から千葉県富津市において最後の調整合宿に入ります。

これは、2021年東京パラマラソン前の調整と同じ流れになります。そして、9月2日まではこの富津市で調整し、9月3日にパリへ移動。パリ入り後の9月8日がパリパラマラソンとなります。

そのパリパラマラソンコースですが、オリンピックコースとは違い、厳しい坂道はありません。しかし、小刻みなアップダウンと鋭角に曲がるコーナー。さらに、コース上に点在する石畳など、ハードなコースであることは確かです。もちろん、それらを想定しながら走り込んできましたが、いよいよ最終調整です。

調整の基本は「休養」です。

しかし、目標の大会が近づいてくると、プレッシャーなどが増えてくるので、多くの選手は精神的に不安定な状況に陥り易くなっていきます。すると、練習量を落としていかなくてはいけない時期にもかかわらず、逆にたくさん走る選手がでてきます。

このケースは、選手自身もそのことに気が付いていないことが多く、無意識にガンガン走っていることがあります。そのため、レース後に振り返りをしたとき、なぜうまく走れなかったかの原因をつかめないときがあります。

しかし、しばらくたって、「あいつは、2日前の朝練習でものすごいスピードで走っていた」「あいつは、前日にジョグしてくると言ってから2時間後に帰ってきた」など、チームメートから「トンデモ話」がでてきます。

同様に、飲んだこともないサプリメントを購入したり、一度も受けたことのない治療院に出向いていったりと、不安な気持ちがそのまま行動にあらわれたりもします。もちろん、コーチや監督などが細かい指示を出し、それらを注意喚起しますが、全てを監視して完全に防止することはできません……。

また、選手は1日に2回から3回の練習を日課にしています。したがって「走らないこと」「走れないこと」への罪悪感が強いのが、選手でもあります。しかし、本命レースの数日前は完全休養日なども入るので、逆にひまを持て余すことにもなります。

この矛盾するような現実と心理状態を自身でうまくコントロールできる選手が、本番当日に調子を合わせられます。パリパラマラソンまであと2週間ですが、「迷ったら休養」で調整していきます。

2024夏を走る・12

【2024夏を走る・12】パリ五輪が閉幕しました。あらためて、日本選手団の皆様、たくさんの感動と元気をありがとうございました。また、金メダルランキングでは「世界3位」と、いつの間にか日本は「スポーツ大国」と言われる位置に……。

男女のマラソンも、赤崎選手と鈴木選手が自己記録を更新しての6位入賞と健闘しました。特に、個人的には五輪と言う世界最高峰の大会で自己記録を更新したことが素晴らしいと感じました(最高の状態に仕上げ、最高の大会に挑めた調整力)。

また、男女のマラソンとも、金メダリストの記録は五輪新記録でした。一方、パリ五輪のマラソンコースはかつてない過酷なコースと言われていましたが、逆に全体的にも記録が良かったような(結局は苦しくなってくる30k以降が下り基調だったからか?)……。

そこで勝手ながら過去の五輪マラソン記録をピックアップしてみました(当日の天候やシューズなどは不問)。

<2012年ロンドン大会>男子マラソン:金2時間8分1秒、銀2時間8分27秒、銅2時間9分37秒、8位2時間12分17秒、20位2時間15分26秒、30位2時間17分0秒、40位2時間18分34秒、2時間15分以内17名。女子マラソン:金2時間23分7秒、銀2時間23分12秒、銅2時間23分29秒、8位2時間25分11秒、20位2時間28分12秒、30位2時間30分13秒、40位2時間31分58秒、2時間30分以内28名。

<2016リオ大会>男子マラソン:金2時間8分44秒、銀2時間9分54秒、銅2時間10分5秒、8位2時間11分49秒、20位2時間14分24秒、30位2時間15分36秒、40位2時間17分44秒、2時間15分以内23名。女子マラソン:金2時間24分4秒、銀2時間24分13秒、銅2時間24分30秒、8位2時間27分36秒、20位2時間31分22秒、30位2時間34分36秒、40位2時間36分32秒、2時間30分以内15名。

<2021年東京大会>男子マラソン:金2時間8分38秒、銀2時間9分58秒、銅2時間10分0秒、8位2時間11分41秒、20位2時間15分11秒、30位2時間16分35秒、40位2時間18分27秒、2時間15分以内19名。女子マラソン:金2時間27分20秒、銀2時間27分36秒、銅2時間27分46秒、8位2時間30分13秒、20位2時間33分15秒、30位2時間34分52秒、40位2時間36分38秒、2時間30分以内7名。

<2024年パリ大会>男子マラソン:金2時間6分26秒、銀2時間6分47秒、銅2時間7分0秒、8位2時間8分12秒、20位2時間10分9秒、30位2時間11分32秒、40位2時間12分34秒、2時間15分以内55名。女子マラソン:金2時間22分55秒、銀2時間22分58秒、銅2時間23分10秒、8位2時間26分1秒、20位2時間29分20秒、30位2時間30分20秒、40位2時間31分58秒、2時間30分以内26名。

以上、ロンドン大会以降の男女マラソン記録を記載しましたが、やはり男子は今回のパリ大会が過去最速レースだったと言えるかもしれません。一方、女子は全体的にもロンドン大会とほぼ同じような記録でしたが、金メダリストが五輪新記録だったので、パリ大会の方が速かった?

2024夏を走る・11

【2024夏を走る・11】パリパラマラソン当日まであとひと月となり、再び北海道北見市において強化合宿を実施しております。3年前の東京パラも、同時期にこの北見市で強化合宿を実施し、男女のメダル獲得につなげることができました(2016年リオパラから)。

そして、今回のパリパラマラソン日本代表選手は、その3年前の東京パラマラソンと同じ顔ぶれとなりました。つまり、男子代表の堀越選手は2大会連続のメダル獲得。熊谷選手は2大会連続の入賞(初のメダル獲得)。さらに、女子代表の道下選手は2大会連続の金メダル獲得(3大会連続のメダル獲得)と、本人以上に周りの期待がふくらみます。

一方、日本代表選手に対して「楽しめば良い」「ベストを尽くせば良い」など、現地入りするまでは、比較的穏やかな言葉をかけられることが多いのは一般的です。ところが、試合結果に大きな乖離があったり、試合後の態度や発言によっては厳しいコメントやバッシングがいつの大会もあります。残念ながら……。

もちろん、どの代表選手も関係者も当初の目標を達成するため、日々の努力を重ねています(月並みですが)。

さて、今月6日から北海道北見市で強化合宿を実施していますが、厳しい暑さに負けないよう、最後の調整をしています。特に、4年に1回しか開催されないオリパラのような国際大会で力を発揮するために不可欠なことは多々ありますが、その中でも重要なことに「過去の経験とノウハウ」があります。

それは、同じ選手が何度も経験すると言う意味だけでなく、チームジャパンとして戦ってきた経験やノウハウも含まれ、むしろチームジャパンとしての経験やノウハウが大切になります。特に、マラソンは個人種目の極みのような扱いを受けますが、実際はかなり違います。

至極当然のことながら日々のマラソントレーニングには多くのサポートを必要とし、そのサポートをする側の経験やノウハウも問われることになります。また、ブラインドマラソンには伴走者(ガイドランナー)を必要とする選手もおり、日本代表選手の伴走者ともなれば、「誰でも簡単に」と言うわけにはいきません。

また、単独走が可能な弱視選手ほど、トレーニング時の給水やペース管理など、一般選手のようにはいきません。つまり、逆にトレーニングパートナー的な存在が不可欠にもなるのです。さらに、伴走者やトレーニングパートナーの走力を維持向上させるためには、強化合宿中も定期的に伴走者の個人練習を取り入れる必要があります(合宿中は伴走者の交代要員も必要になる)。

今回のパリパラマラソンに向けた強化合宿においては、正式なパリパラ伴走者2名以外にも、交代伴走者兼トレーニングパートナーとして6名を帯同させております。その中には箱根駅伝を目指す順天堂大学と帝京大学の学生選手も含まれます(あらためて感謝です)。

このように、パリパラマラソン日本代表選手たちは、多くの仲間に支えられることで、日々のトレーニングはもちろん、外部からの誹謗中傷などからも選手たちを守れることにもなるのです。

2024夏を走る・10

【2024夏を走る・10】パリオリンピックも開幕し、日本代表選手たちも熱い戦いを繰り広げています。一方、日本も連日の猛暑で、その暑さに疲弊しています……。

そんな中、千葉県にある順天堂大学で選手たちの測定を実施しました。測定した項目は前回と同じで、トレッドミル上を走りながら乳酸カーブなどを測定しました。そして、今回の測定も前回同様、同大学大学院スポーツ健康科学研究科教授、町田先生のご支援ご指導のもと、無事に実施することができました。あらためて、御礼申し上げます。

今回の測定は、パリパラマラソン日本代表選手を優先しましたが、疲労が蓄積している選手は測定自体を回避しました。もちろん、測定を実施した選手たちも同様、疲労がかなり蓄積した状態でした(走り込みの真っ只中)。

また、測定と聞くと、常に前回の数値と比較し、「上がったか?下がったか?」だけに一喜一憂するケースが多いのですが、確かにそれも大切な見方です。ところが、今回のように、測定前から疲労が蓄積していることを、どの選手も自覚している場合、前回の数値よりも下がる可能性が高くなることは、はじめから予測できます。

だからと言って、計画していた測定を簡単に中止する必要はないと考えます。そもそも測定は、身体の状態を数値化することであり、可視化することです。つまり、測定前に自分自身で今の状態を主観的に数値化(予測)し、実際の数値と比較検証することも大切な見方だからです。

その結果、測定前に予測した数値と実測した数値との差異が少ない選手ほど、自分自身の状態をより正確に把握する能力が高いことにもなります。これは、とても大切な能力のひとつであり、日々のトレーニングを適切な強度で継続できることにもつながります。

至極当然のことながら、実際のレース中は心拍数や血中乳酸濃度などの数値を正確に測定しながら勝負することは相当難しい。つまり、レース中は適切なペース設定やペース配分、ライバルと比較した際の余裕度など、勝負していく上でも「主観的運動強度」は大切な指標になります。

特に、夏マラソンの場合、主観的に自分自身の状態を把握しながらレースを進めていく能力が勝敗を大きく左右すると考えます。今回の測定で、たんに数値の良し悪しだけでなく、測定前の主観的数値(予測)と測定後の実績数値との差異を考察し、その結果をパリパラマラソンにつなげてほしいと考えます。

2024夏を走る・9

【2024夏を走る・9】予想どおりと言うか、予報どおりの猛暑が続きましたが、千葉県富津市での強化合宿を終えることができました。合宿中の気温は連日30度を超え、さらに湿度が70%前後で推移していたのが、選手たちをより過酷な状況に追いやっていました。

強化合宿中の具体的なポイント練習は、「40k走(距離走)」「インターバル(スピード)」「16k走(ペース走)」の3回(3日)。しかし、上記したとおり、3回とも気温は30度を超え、湿度も70%を超える過酷なコンディションでした。

本来なら気温が30度を超えている時点で、ランニングどころか屋外での運動は禁止です。したがって、気温が30度を超える過酷なコンディション下における「正しいマラソントレーニング理論」など、原則として存在しないのです。少なくとも私自身は見たことがありません。

もちろん、それに近い理論はあります。暑さ対策の専門事例として「暑熱順化」「給水」「手掌冷却」「深部体温」などなど、猛暑の中で体を動かし続けるための理論と言うよりも、先人たちの経験から導かれたノウハウは多数存在します。

ところが、これらの対策をほどこしてもその効果は個々によって大きく異なり、そもそも暑さに強い身体(個体)なのか否かになります。あくまでも私の主観ですが、夏マラソンに長くかかわっていると、そもそも暑さに強い弱いは生まれた場所(暑い地域か寒い地域か)や、生まれた月(夏なのか冬なのか)など、幼少期の生活環境にも左右されていると感じます。

さらに、暑さ対策の技術的な項目のひとつにランニングフォームがあります。いわゆるランニングエコノミーと言われる部分です。これは単にフォームがキレイとかではなく、コンパクトな動きが身についているか否かです。

これも私の主観ですが、いわゆる「力強い走り」をしているランナーは意外と暑さに弱い……。その具体例のひとつに、腕振りが力強く(前後に大きく振る)、腕振りの力で前に進んでいるようなフォームのランナーはそれに該当します。逆に、体幹に近い位置で、コンパクトにリズムをとるような腕振り(腕を大きく振らない)のランナーは、暑い中でも安定した走りが持続できるように感じます。

しかし、これが冬マラソンの場合、力強いフォームのランナーは、30k以降の苦しい局面では粘り強さを発揮します。ところが、夏マラソンの場合、その力強いフォームがゆえに、逆に筋肉の発熱と発汗を促進させ、前半から深部体温の上昇や脱水に陥る傾向が強くなるのでしょうか。

もちろん、これらについても正確なことはわかりませんが、言えることは何度経験しても「夏マラソンを攻略していくこと」は難しい……。

2024夏を走る・8

【2024夏を走る・8】関東地方も梅雨が明け、連日30度を超える猛暑です。いよいよ本格的な夏の到来でしょうか。そんな中、本日から千葉県富津市富津公園においてパリパラ強化合宿を実施します。

本来なら涼しい場所で合宿をしますが、あえて暑い千葉県で実施します。その目的は、暑さ対策になります。専門的な話は割愛しますが、一度は暑熱順化した身体も、長期間涼しい場所にいると、その効果はどんどん薄まっていくと言われています。

パリパラマラソン代表選手たちは、今月の前半は北海道北見市で強化合宿を実施しましたが、このタイミングでもう一度暑い中で走り込んで、身体を暑熱順化させます。もちろん、無理をして調子を崩すようなことはしませんが、暑さに慣れるためには、科学的と言うよりも根性論寄りのトレーニングが推奨されています(そもそも気温が30度を超える中で運動をしていはいけない)。

実際に暑熱対策の専門的な話を見聞しても、最終的には「気持ちの持ち方」「慣れるまで我慢」など、「そんなんで大丈夫かな?」と思ってしまう文献などが多いと感じます(繰り返しになりますが、気温が30度を超える中で運動をしてはいけない)。しかし、何年も夏マラソン対策のトレーニングを繰り返し、その経験を重ねてくると「確かにそのとおりだ」と、腑に落ちます。

また、8月から9月上旬のパリの気温は、日本ほど暑くなりません。少なくとも過去のデータ上では……。しかし、最近の異常気象を受け、パリをはじめヨーロッパは熱波の影響で40度を超える日があったりもします。要は、パリパラマラソン代表選手たちがパリ入りした時、「ここは涼しくて快適だ」と、思える状態に仕上がっていれば、個々の目標を達成できる確率は高くなります。

そして、今日からの千葉県富津市での強化合宿を終えると、8月は再び北海道北見市で合宿を実施します。そのあとは、長野県上田市菅平高原に移動し、8月下旬は、千葉県富津市で最後の調整合宿を……。そして、そのままパリへ飛ぶ予定です。

さて、9月8日のパリパラマラソン当日から逆算すると、ある程度の量(距離)を追える最後の強化期間に入ります。富津強化合宿2日目となる明日は、早朝6時スタートで「40k走」を予定しています。この期間に入って、パリパラ代表選手たちの走りを見るのは、いろいろな意味で緊張もします。

そんな中、上記したように身体が暑さに順化しているか否かよりも、気温が30度の中でも「たいした暑さではない」と、選手たちが心の中で思いながら走れる状態になっていれば合格です。そこを今日からの強化合宿で見ていきたい。

2024夏を走る・7

【2024夏を走る・7】パリパラマラソンのちょうど2ヵ月前に当たるこの日程で実施した北海道北見市での強化合宿は無事に終了しました。その合宿中の主なポイント練習は42k走を3本。さらに、ホクレンディスタンス北見大会と網走大会の5000mに出場。

毎年のことながら、この7月の北見合宿はかなりハードな内容になりました。特に、40k以上の長距離を短期間で3本走ることは、設定タイムを抑えて走ったとしても相応のダメージが蓄積されていきます。そのイメージとしては、まさに「じわじわと真綿でしめていく」。そんな感じでしょうか。

至極当然のことながら、マラソンに向けたトレーニング方法は様々で、どれが正しいかの判断がつかないのは、いつの時代も同じです。その中においても、特に夏マラソンに特化した的確なトレーニング方法や理論を目にすることは、ほとんどありません。

ましてや4年に1回しか開催されないオリパラマラソンに対する専門的なノウハウを見聞することなど、なおさら難しいことです。かくいう私は、4年に1回のパラマラソンにかかわるのは、今回のパリパラで8回目になります。

もちろん、私自身が夏マラソンに向けた確固たるトレーニング理論などを持っているわけではありません。しかし、長くかかわってきた分、暑い中で走り込むためには「どの程度の強度で、どの程度の距離を走るとどうなるのか?」は多少経験してきましたが……。

その中においてひとつ言えることは、指示している側(監督やコーチ)がどれだけ我慢できるか否か。つまり「こんなに暑い中で走らせて良いのか?」「こんなに遅い設定タイムで意味があるのか?」など、どうしても冬マラソンと比較し、選手のシャープな動きや速い設定タイムなどを追いかけてしまうからです。

また、「涼しい時間帯で走る方が身体への負担がすくない」「量より質を上げた方が良い」など夏のトレーニングにおいてはよく見聞しますが……。実は、これまでの経験から夏マラソン攻略にはあまり効果的ではないかもしれないと、個人的に思うトレーニング方法も多々あります……。

そもそも、気温が30度をこえる中で運動すること自体が命の危険にさらされます。ましてやマラソンなど……。しかし、そんな過酷な状況下で、日本代表選手として日の丸をつけ、メダル獲得を目指してマラソンを走るためには「何をどうするのか?」。

パリパラマラソンまであと2ヵ月。しっかりと取り組んでいきます。

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