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2012-03

期分け・39

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少し間があきましたが、引き続きマラソンの前半と後半のペース配分についてです。

前回は、世界記録及び日本記録の実績ラップから前後半ハーフの差異。また、私がコーチしている女性市民ランナーの実績ラップから前後半ハーフの差異を分析しました。※詳細については、前回の「期分け・38」を参照願います。

世界記録や日本記録の場合、記録を狙うためのペースメーカーがキッチリと先導するため、ほとんどイーブンペースです。このことから記録を狙うには1k毎に狙った設定ペースを刻んでいくことが最も効率的であることが読み取れます。

ところで、どんなランナーでもイーブンペースで刻むことができるのでしょうか?

実は、このイーブンペースでマラソンを攻略することは確かに効率的ですが、ある設定ペースを一定に刻むには、自分自身の走力や当日のコンディションを常に把握しておく必要があります。更に、マラソンに向けた調整段階での5kや10kのタイム、あるいはハーフマラソンのタイムから目標のマラソンタイムを狙える調子か否かをスタート前までに見極める判断力が必要不可欠になります。

このように、最も効率的なイーブンペースでマラソンを走り切るためには、それを実戦するための準備(トレーニング)と、相応の走力を身につけておく必要があります。つまり、偶発的にイーブンペースで走り切ることはできても、常に安定したイーブンペースで走り切ることは簡単なことではないのです。同時に、優れたペース感覚が身についていないと、コースやコンディションの違うマラソン大会毎にイーブンペースを再現することもできません。※但し、実力より遅いペース設定でのイーブンペースは、この考えに該当しません。

一方、前半のハーフをおさえて、後半のハーフをペースアップする走り方はどうでしょうか?

正月の箱根駅伝をはじめ各種駅伝大会では、「前半を抑えて後半ペースアップする走り」を指示しているチームが多く、実際にそのような走りの選手が好走しています。もちろん、マラソンもそのような走り方が、効果的なひとつであるに違いありません。

ところがマラソンの場合、走る距離や時間の長さが駅伝とは全く比較になりません。そのため、前半を抑えて後半ペースアップする走りで成功したとしても、それを何度も再現して記録を更新しているランナーは、とても少ないと感じます。それどころか逆に、後半ビルドアップしながら追い上げての優勝や、自己記録を更新したランナーの多くは、その後のマラソンで伸び悩んでいるケースを意外と多く目にします。これは、実業団選手にも多く見受けるケースです。

ではなぜ、後半ビルドアップするレース展開の再現性は難しいのでしょうか?

この点については、次回考えていきます。

つづく。

ロンドンパラリンピックへの道・7

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3月11日、ロンドンパラリンピックに向けた最も重要な大会のひとつである「九州チャレンジ陸上競技選手権大会」が、熊本県で開催されました。

この大会は、ロンドンパラリンピックの参加標準記録を目指せる国内最後の大会でした。ところが、あいにくの雨となり、短距離や跳躍系の種目はもちろん、車椅子選手にとっても厳しいコンディションとなりました。

これまで何度かこのブログでも記載しましたが、ロンドンパラリンピックに出場するための参加標準記録を公式に残すには、次の条件を満たす必要があります。◆1).選手が国際パラリンピック委員会(IPC)に選手登録をしている。◆2).選手が自分の障害を判定する国際クラス分けを受けており、「R」か「C」の認定を受けている。◆3).出場する大会がIPC公認の大会である。

最低でも上記3つの条件を満たしていないと、パラリンピックの参加標準記録を突破したとしても記録は公認されません。したがって、一般の日本陸連公認大会や各種選手権大会で参加標準記録を突破した場合、日本陸連としては公認されるが、パラリンピックとしては公認されない状況が発生します。

特に、視覚障害クラスや手足障害クラスの選手は、健常者の大会に出場している選手も多数います。具体的な例として、世界中から注目を集めている南アフリカのピストリウス選手(T43クラス/両下腿切断)は、健常者の世界選手権に出場するなど、その活躍は群を抜いています。※今現在、オリンピックを目指している一般の日本人選手の中でも彼より速い選手はひとりもいない。

ところが、一般の大会で大活躍したとしても、上記にある3番目の条件を満たしていない大会ならパラリンピックの公式記録としては公認されないのです。つまり、ピストリウス選手でもIPC公認大会で記録を残していなければ、オリンピックには出場できてもパラリンピックには出場できないことになります。

このように、パラリンピックに出場するための公認記録を残せる大会は世界的に見ても少なく、国内でも5つ程度です。そして、今大会はロンドンパラリンピックの参加標準記録を目指せる国内最後の大会でした。※障害者の国体は、IPC公認ではなく、パラリンピックとは全く関係のないローカル大会となる。

しかし、残念ながら今大会からロンドンパラリンピックにつながるような記録は・・・。

したがって、日本代表選手の決定は6月以降ですが、今大会でロンドンパラリンピックへの道が事実上閉ざされた選手も多数います。とても残念なことですが、次の大会に気持ちと身体をシフトさせてほしいと願っています。

さて、そのパラリンピックも2004年のアテネ大会あたりまでは、不慮の事故や疾患等で障害を負った人が突然パラリンピックに出場してくるケースもありました。しかし、2008年の北京大会を境に上記した3つの条件がより厳格になりました。その結果、パラリンピックに出場するための選手に課された記録以外のハードルが高くなり、一般のオリンピックのように記録だけに集中した対応だけでは、日本代表に選考できなくなりました。

今後の選手強化や普及として、単に競技力の向上だけに特化せず、パラリンピックに出場するための道筋をどのように示していくかも大きな課題のひとつになりそうです。

つづく。

2012名古屋ウィメンズマラソン

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女性ランナーだけに限定した「2012名古屋ウィメンズマラソン」が、盛大に開催されました。また、この大会は、昨年までの名古屋国際女子マラソンを引き継ぐ大会です。そのため、今回はロンドンオリンピックの国内最後の選考レースでもありました。

その結果は既にご存知のとおり、尾崎選手が日本人トップでゴールし、ロンドンオリンピックの代表切符を見事につかみました。また、ロンドンオリンピックに向けた代表選考レースはかつてない注目を集め、何かと話題の多い選考だったと思います。

そして、その中心だったのが、川内優希選手であることは誰もが認めるところです。しかし、残念ながら川内選手は代表入りを果たせませんでしたが、その果敢な走りと自己の結果に対する厳しいコメントは、これまでの常識だった壁をいくつも突き崩したと感じます。

そのひとつは、代表選考レースに複数回挑戦したことです。これにより、実業団選手や代表有力候補とされる選手までもが、再挑戦する姿が数多くありました。その結果、今回の名古屋で快走した尾崎選手は再挑戦での代表入りとなりました。一方で、堀端選手や赤羽選手は裏目に出てしまった感も残りました。いずれにしろ、これまでの代表選考に比べ、透明感は格段に増したように思います。

そして、川内選手が残した最も大きな功績は、マラソンで日本代表になれる可能性は誰にでも平等にあることを示した点ではないでしょうか。具体的には、どんな生活スタイルやトレーニング環境であろうと、記録と結果が伴えば、必ず道はひらけることを証明したことです。

実は、どのスポーツもチャンスは平等にあると思いがちですが、よく分析していくと多くのスポーツが必ずしもそうではありません。しかし、マラソンは過去の実績や経験に関係なく誰でも選考レースに出場できるチャンスがあります。そして、たとえ無名のランナーであってたとしても記録と結果を残せば日本代表入りは実現します。これは、他のスポーツではほとんどあり得ないことです。そして、この極めてシンプルな仕組みを川内選手があらためて示したのです。

さて、今回の名古屋では1万人以上の女性市民ランナーが参加しました。これだけでも画期的なことだと思いますが、サブスリーを達成したランナーも90名をこえていました。もちろん、全体から見た割合は少ないですが、女性市民ランナーのレベルは確実にアップしています。

また、私の個人的な意見になりますが、女性ランナーは子供を出産した後、30代から力を発揮しているケースがとても多いと感じます。また、学生時代に陸上競技経験の有無がマラソンのパフォーマンスに直結しない点も女性ランナーの大きな特徴でもあります。残念ながらこの点は、男性ランナーにはあまり当てはまりません。

このことから川内優希選手のようなランナーは、実は女性市民ランナーから現れてくる可能性の方が高いのではないでしょうか。あくまでも個人的な意見ですが、次回のオリンピックあたりから、子育てをしている専業主婦から日本代表に名乗りをあげる女性市民ランナーが出現してくるかもしれません。

大いに期待したいと思います・・・。

ロンドンパラリンピックへの道・6

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先日の3月4日、「第34回千葉県民マラソン大会」が、千葉県富津市において開催されました。また、大会会場をこの富津市に移して5回目となります。そして、日本盲人マラソン協会の視覚障害者選手が特別招待として毎年参加できるようになったのも、この富津市に移ってからです。

あらためて、富津市の皆様をはじめ大会関係者の皆様に対し、厚く御礼申し上げます。

さて、少し手前味噌の話しになりますが、実は私も20代前半のころ、この大会で5連覇を達成したこともあり、マラソンへの足掛かりをつかんだ思い出深い大会です。そんなこの大会に今年は、3名の視覚障害者選手を参加させていただきました。もちろん、3選手とも今年のロンドンパラリンピック日本代表の有力候補選手です。

特に、T12クラス(弱視)の岡村正広選手は、昨年12月の福岡国際マラソン大会から好調をキープしており、今大会での快走も期待していました。

その岡村選手の視力は、見えている範囲が極端に狭くなる視野狭窄と、日が沈むとほとんど見えなくなる夜盲症があり、日々の練習にも大きな支障をきたしております。そんなハンディを持ちながらも地道な努力を積み重ね、昨年のIPC世界選手権大会のマラソンでは銅メダルを獲得しました。※一般的にも弱視者への理解や配慮は、全盲者よりも遅れている。

また、岡村選手は今年で42歳になりますが、肉体的な部分はもちろん、マラソンに対する意欲や情熱についても衰える気配すらありません。更に、身体のケアについては、自らの身体に自ら針治療を施しながら、常に万全の体調をキープしています。※岡村選手は千葉盲学校で針灸の教諭をしている。

そんな岡村選手は視覚障害者ランナーとしてだけでなく、富津練習会をはじめ共に練習を積み重ねている多くの市民ランナーたちが目標にしている貴重で憧れの存在でもあります。そして、今回の千葉県民マラソン大会でも全国高校駅伝大会に出場している強豪高校の選手たちと互角に競り合い、10kを31分2秒の驚異的な自己新記録でゴールを駆け抜けました。

今年の8月末から開催されるロンドンパラリンピックの日本代表選手発表は6月以降になります。もちろん、視覚障害者マラソンは岡村選手を軸にどの選手が代表選出されても、世界と勝負するための強化を積み重ねていく所存です。

皆様方の絶大なるご声援をよろしくお願い申し上げます。

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