Home > Archives > 2021-05

2021-05

5月を走る・4

【5月を走る・4】5月22日(土)から1週間の日程で強化合宿を実施しました。場所は長野県上田市菅平高原です。毎年、この時期は同地において実施しております。また、この時期は多くの実業団選手やチームも、この菅平高原で見かけます。そのため、東京五輪代表内定選手をはじめ、トップ選手やトップチームのトレーニングを目の前で拝見できるので、とても参考になります。

さて、今回の強化合宿から東京パラに向けた本格的な走り込みに入りました。詳細は割愛しますが、起伏の激しいロードでの距離走をメインに、7日間で1日平均50k以上走り込んだ選手もいました。もちろん、他の選手たちもしっかりと走り込むことができました。

また、マラソンに向けた走り込みについては、「量(距離)か?」、「質(スピード)か?」の議論が必ず付いてきますが、どちらか一方に偏ってしまうのは良くない点は、どんな選手でも理解しています。しかし、そのバランスや強度を見極めるのは、運動生理学的な視点を持ってしても適切な判断は難しいと感じます。

特に、目標にしているマラソンが夏(暑い中)の場合はなおさらです。主な理由は気温と湿度が高いからなのは言うまでもありませんが、レース中のストレスやそれに向けた準備(トレーニングなど)のストレスも、冬のマラソンよりも格段に増すからです。

具体例のひとつとして、夏のマラソンは最初から飛ばしていく選手は、ほぼ間違いなく途中でつぶれます。そのため、レースの流れは大集団から少しずつ振り落とされていく「サバイバルレース」になり易く、駆け引きのストレスが増すので、肉体的にも精神的にも激しく消耗します。

また、給水の失敗が後半の大失速に直結するので、レース中の取り損ないは絶対に許されません。同時に、スペシャルドリンクの意味合いが、冬のマラソンとは全く違ってくるので、その中身や量などを個々に研究し、当日に合わせて準備するのも相当なストレスになります。

それら以外にも夏のマラソンは、レース中に多くのストレスが選手を苦しめます。そのため、薄い紙をシャープにカットするカミソリのような切れ味よりも、太い枝を何度もたたいて切り落とし、刃こぼれしないナタのような切れ味が求められます。

さらに、夏のマラソンは多くのストレスに耐え得る強靭な精神力も要求されることにもなります。そして、肉体面と精神面のスタミナを同時に強化するには、やはり「量(距離)」が必須となります。6月も菅平高原において強化合宿を実施します。夏のマラソンに耐え得る強靭な肉体と精神を目標に、徹底的に鍛えます。

5月を走る・3

【5月を走る・3】5月15日(土)から2日間の日程で東日本実業団陸上競技選手権大会が埼玉県熊谷市において開催されました。同大会は視覚障がい男女1500mと5000mの種目も実施いただいており、東京パラ代表内定選手を中心に多くの選手が出場しました。

特に、16日に実施された視覚障がい男子5000mは、T11クラスの唐澤選手が世界新記録を達成しました。同種目には、T11男子5000mの日本記録保持者である和田選手やT12男子マラソンで活躍する熊谷選手など、記録を狙える選手が集まっており、新記録の予感はありました。

また、視覚障がい男子選手の多くが、「同大会の5000mで自己新記録を狙う」と、今シーズン前半の目標を掲げていました。そのため、出場した選手の多くは、この大会にピークがくるように調整していたので、新記録につながる裏付けもありました。

レースは、スタート直後からいつものように熊谷選手が積極的に先頭を引っ張りました。ところが、2000m手前からペースが上がりません。しかし、その後ろに付いていた和田選手が素早く反応し、先頭を入れ替わってラップの落ち込みを食い止めました。そしてラストは、残り800mから唐澤選手が記録へ向かってロングスパートを仕掛けたのです。

記録が更新されるときのレースは、まるで申し合わせたように記録へのアシストを交代しながら流れていきます。今回のレースは、結果的には唐澤選手が世界新記録を達成しましたが、スタートから「3選手が力を合わせて達成した記録」と言って間違いありません。つまり、日本の視覚障がい男子選手の総合力を見せつけたレースだったとも言えます。

この記録で、東京パラでのメダル獲得に近づいたと思いたいのですが、唐澤選手をはじめ上位3選手とも、個々の課題が浮き彫りになったレースでもありました。詳細は割愛しますが、メダル獲得を目指すにはそれぞれの課題を修正する必要があります。

記録はいつの時代も誰かが更新します。そして、その記録は様々な条件や偶然が重なったときに達成する確率が高まります。そして、勝負に勝つ(メダルを獲得)ことと、似ているようでかなり違います。そして、好記録を達成したあとほど、足元をすくわれる可能性も飛躍的に高まるのです。

東京パラリンピック開幕まで100日を切りましたが、時間はもう少しあります。周囲の様々な雑音に振り回されることなく、たんたんとトレーニングを継続し、メダル獲得に向けたそれぞれの課題を修正してほしいと願っております。

5月を走る・2

【5月を走る・2】新国立競技場において、9日にオリンピック、11日にパラリンピックのテストイベントが開催されました。まずは、開催にあたりご尽力いただいた関係者の皆様に御礼申し上げます。

さて、私は9日と11日の両方に選手帯同することができました。また、オリンピックの方は20時以降のスタート、パラリンピックの方は昼食前後のスタートと、昼夜の状況を確認することができた点は収穫でした。

また、選手の皆様にとっても、本番の会場で自分自身の競技を試せた点は何よりだったと思います。何事もそうですが、見るのとやるのでは全く違います。特に、ウォーニングアップを実施するサブトラックからスタートするまでの時系列に沿った動線は、その流れを経験しているか否かで全く違います。

パラリンピックなどの国際大会は、スタート前のいわゆる選手招集からスタートまでの拘束はかなり厳しく、拘束後は時系列的にグループで招集場所を移動していきます。そのため、経験の少ない選手にとっては拘束された後、とても不安な気持ちにもなります。

それは、国際大会において力を発揮できない要因のひとつとして見落としがちな点だと、個人的には思います。また、新国立競技場はもちろん、国際大会を開催する競技場はとても大きくて複雑な構造をしています。つまり、「この階段を上がればどこに出る?」、「このゲートをくぐればどこにつながる?」など、予め確認しておいた方が安心できる点は意外と多いのです。

今回のテストイベントは、それらの点も概ね確認することができました。同時に、今大会で見つかった改善点などは、当日までに修正されるでしょう。また、テストイベントと並行して、東京パラリンピック・マラソンコースの試走も実施することができました。

もちろん、試走と言っても信号を守り、歩道をゆっくりと走りましたが、コースの高低差なども確認することができました。こちらの方も一日かけて全コースを積極的に確認した選手もいました。同じコースを走っても選手ごとに勝負のポイントは異なるので、選手個々にそのイメージを持ちながら、有意義な時間を過ごせたと思います。

今週末は東日本実業団対抗陸上競技大会(視覚障がいの部)に出場し、その後から東京パラリンピックに向け、本格的な走り込みに突入していきます。

5月を走る

【5月を走る】どんな選手でも「日々のトレーニング」を積み重ねています。それは、目標(順位や記録)を達成するためです。しかし、狙った大会においてそれを達成することは簡単なことではありません。なぜなら、勝負にはライバルがいるのと、記録は当日のコンディションなどに大きく左右され、自分自身でコントロールできない部分が圧倒的に多いからです。

つまり、勝負に勝つことや目標記録を達成できるか否かは、自分自身の能力と言うより、その当日のライバルや天候などのコンディションが自分寄りに整っているか否か。すなわち、「運」があるか否かの非科学的な要因にも大きく左右されるからです。

前述した「日々のトレーニング」も見方を変えれば、「運気を高める・引き寄せる」ために日々継続しているとも言えないでしょうか。また、安定したパフォーマンスを発揮している選手のトレーニング内容や生活習慣は意外とシンプルで、考え方や行動は「ルーティン(習慣化)」されていてブレません(安田の主観)。

さて、先日の5月3日は日本陸上競技選手権大会の男女1万メートルが静岡県で開催されました。女子1万メートルには、いつも富津合同練習会で切磋琢磨している山口遥選手も出場しました。彼女は昨年の11月ころから故障や体調不良などが重なり、調子がどん底まで落ちていましたが、ようやく底を打って上向いてきた状態です。

また、コーチの立場としては「中途半端な調子で出場する必要はない」と、本人にも話をしてきました。一方で同大会にエントリーしている他の選手たちの状態を私なりに分析すると、「意外と戦えるかも」とも思えました。具体的には、東京五輪を意識してハイペースになる選手は数名で、あとの選手は団子状態になって遅くなると。

今の山口選手は、3千メートルを9分40秒、5千メートルを16分10秒あたりで通過する集団に位置すれば後半は勝負できると、本人とも話をしていました。果たして、当日のレースは予想どおりの展開になり、「3千メートルを9分40秒、5千メートルを16分13秒」と願ったりかなったりの集団の後方に位置取りできました。

8千メートル付近でその集団は8名で、6位争いです。つまり、その集団の3番に入れば8位入賞です。自己記録更新だけでなく、入賞の可能性も見えてきた残り4周あたりだったでしょうか。山口選手が、はじめてその集団の前に出て、勝負を仕掛けました。そして、残り1周の段階で、その集団は山口選手を含む3名と、それ以下に割れました。

ラストは後方の選手からかなり追い込まれましたが、「32分24秒86の自己新記録で8位入賞!」。今大会に向け、不調時も自分自身のルーティンを崩さずにトレーニングを継続してきたことで、当日のレース展開を冷静に見極める判断力にもつながりました。また、レース後半は「今日は入賞もできる(運気を引き寄せる)!」と、自ら仕掛けて積極的にそのチャンスをつかみに行った決断力も見事でした。

今後も好不調の波はあるでしょうが、今回の経験は更なる飛躍のきっかけにつながることでしょう。

Home > Archives > 2021-05

Search
Feeds

ページの先頭へ