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夏を走る

2024夏を走る・14

【2024夏を走る・14】パリパラが開幕しましたが、パリパラマラソンチームは千葉県富津市で最後の調整合宿中です。そして、9月8日がパリパラマラソン当日になります。その当日までに予定しているポイント練習は、あと2回。

さて、パラリンピックに出場する選手たちは、選手村に2週間程度滞在します。しかし、2021年の東京大会はコロナ感染防止対策のため、各選手の出場する競技日程に合わせ、競技当日の数日前に入村し、競技終了後は速やかに退村する方式がとられました。

そして、今回のパリ大会も原則として東京大会と同じ方式です。実は、マラソンはパラリンピック最終日の競技になるので、2016年のリオ大会までは、選手村で約2週間も調整していました(事実上の調整合宿)。

もちろん、現地のコンディションに体調を合わせたり、マラソンコースをじっくりと確認できるなど、選手村に長く滞在するメリットはありました。一方、大会最終日が近づくにつれ、競技を終えた選手や関係者は緊張感も解け、楽しむモードに突入していきます。

そのピークは、パラリンピック最終日の前夜。つまり、マラソン選手たちにとっては、出走前日の夜になります。最も体を休め、良質な睡眠が必要な出走前夜にもかかわらず、選手村はお祭り騒ぎになります。

海外の陽気な選手たちは、国境を越えた仲間たちとギターなどを手に歌ったり踊ったりと、選手村の広場などで大いに盛り上がります。まさにこれこそが真の国際交流、パラリンピックとも言えますが、明日に大勝負を控えているマラソン選手たちにとっては……。

もちろん、今となっては薄れゆく記憶の中に残る「思い出」のひとつですが、パリパラも東京パラのように、「静かな夜」になることを……。そして何よりも、出場する選手たちが最後までケガや故障なく、スタートラインに立てることを祈るばかりです。

2024夏を走る・12

【2024夏を走る・12】パリ五輪が閉幕しました。あらためて、日本選手団の皆様、たくさんの感動と元気をありがとうございました。また、金メダルランキングでは「世界3位」と、いつの間にか日本は「スポーツ大国」と言われる位置に……。

男女のマラソンも、赤崎選手と鈴木選手が自己記録を更新しての6位入賞と健闘しました。特に、個人的には五輪と言う世界最高峰の大会で自己記録を更新したことが素晴らしいと感じました(最高の状態に仕上げ、最高の大会に挑めた調整力)。

また、男女のマラソンとも、金メダリストの記録は五輪新記録でした。一方、パリ五輪のマラソンコースはかつてない過酷なコースと言われていましたが、逆に全体的にも記録が良かったような(結局は苦しくなってくる30k以降が下り基調だったからか?)……。

そこで勝手ながら過去の五輪マラソン記録をピックアップしてみました(当日の天候やシューズなどは不問)。

<2012年ロンドン大会>男子マラソン:金2時間8分1秒、銀2時間8分27秒、銅2時間9分37秒、8位2時間12分17秒、20位2時間15分26秒、30位2時間17分0秒、40位2時間18分34秒、2時間15分以内17名。女子マラソン:金2時間23分7秒、銀2時間23分12秒、銅2時間23分29秒、8位2時間25分11秒、20位2時間28分12秒、30位2時間30分13秒、40位2時間31分58秒、2時間30分以内28名。

<2016リオ大会>男子マラソン:金2時間8分44秒、銀2時間9分54秒、銅2時間10分5秒、8位2時間11分49秒、20位2時間14分24秒、30位2時間15分36秒、40位2時間17分44秒、2時間15分以内23名。女子マラソン:金2時間24分4秒、銀2時間24分13秒、銅2時間24分30秒、8位2時間27分36秒、20位2時間31分22秒、30位2時間34分36秒、40位2時間36分32秒、2時間30分以内15名。

<2021年東京大会>男子マラソン:金2時間8分38秒、銀2時間9分58秒、銅2時間10分0秒、8位2時間11分41秒、20位2時間15分11秒、30位2時間16分35秒、40位2時間18分27秒、2時間15分以内19名。女子マラソン:金2時間27分20秒、銀2時間27分36秒、銅2時間27分46秒、8位2時間30分13秒、20位2時間33分15秒、30位2時間34分52秒、40位2時間36分38秒、2時間30分以内7名。

<2024年パリ大会>男子マラソン:金2時間6分26秒、銀2時間6分47秒、銅2時間7分0秒、8位2時間8分12秒、20位2時間10分9秒、30位2時間11分32秒、40位2時間12分34秒、2時間15分以内55名。女子マラソン:金2時間22分55秒、銀2時間22分58秒、銅2時間23分10秒、8位2時間26分1秒、20位2時間29分20秒、30位2時間30分20秒、40位2時間31分58秒、2時間30分以内26名。

以上、ロンドン大会以降の男女マラソン記録を記載しましたが、やはり男子は今回のパリ大会が過去最速レースだったと言えるかもしれません。一方、女子は全体的にもロンドン大会とほぼ同じような記録でしたが、金メダリストが五輪新記録だったので、パリ大会の方が速かった?

2024夏を走る・11

【2024夏を走る・11】パリパラマラソン当日まであとひと月となり、再び北海道北見市において強化合宿を実施しております。3年前の東京パラも、同時期にこの北見市で強化合宿を実施し、男女のメダル獲得につなげることができました(2016年リオパラから)。

そして、今回のパリパラマラソン日本代表選手は、その3年前の東京パラマラソンと同じ顔ぶれとなりました。つまり、男子代表の堀越選手は2大会連続のメダル獲得。熊谷選手は2大会連続の入賞(初のメダル獲得)。さらに、女子代表の道下選手は2大会連続の金メダル獲得(3大会連続のメダル獲得)と、本人以上に周りの期待がふくらみます。

一方、日本代表選手に対して「楽しめば良い」「ベストを尽くせば良い」など、現地入りするまでは、比較的穏やかな言葉をかけられることが多いのは一般的です。ところが、試合結果に大きな乖離があったり、試合後の態度や発言によっては厳しいコメントやバッシングがいつの大会もあります。残念ながら……。

もちろん、どの代表選手も関係者も当初の目標を達成するため、日々の努力を重ねています(月並みですが)。

さて、今月6日から北海道北見市で強化合宿を実施していますが、厳しい暑さに負けないよう、最後の調整をしています。特に、4年に1回しか開催されないオリパラのような国際大会で力を発揮するために不可欠なことは多々ありますが、その中でも重要なことに「過去の経験とノウハウ」があります。

それは、同じ選手が何度も経験すると言う意味だけでなく、チームジャパンとして戦ってきた経験やノウハウも含まれ、むしろチームジャパンとしての経験やノウハウが大切になります。特に、マラソンは個人種目の極みのような扱いを受けますが、実際はかなり違います。

至極当然のことながら日々のマラソントレーニングには多くのサポートを必要とし、そのサポートをする側の経験やノウハウも問われることになります。また、ブラインドマラソンには伴走者(ガイドランナー)を必要とする選手もおり、日本代表選手の伴走者ともなれば、「誰でも簡単に」と言うわけにはいきません。

また、単独走が可能な弱視選手ほど、トレーニング時の給水やペース管理など、一般選手のようにはいきません。つまり、逆にトレーニングパートナー的な存在が不可欠にもなるのです。さらに、伴走者やトレーニングパートナーの走力を維持向上させるためには、強化合宿中も定期的に伴走者の個人練習を取り入れる必要があります(合宿中は伴走者の交代要員も必要になる)。

今回のパリパラマラソンに向けた強化合宿においては、正式なパリパラ伴走者2名以外にも、交代伴走者兼トレーニングパートナーとして6名を帯同させております。その中には箱根駅伝を目指す順天堂大学と帝京大学の学生選手も含まれます(あらためて感謝です)。

このように、パリパラマラソン日本代表選手たちは、多くの仲間に支えられることで、日々のトレーニングはもちろん、外部からの誹謗中傷などからも選手たちを守れることにもなるのです。

2024夏を走る・10

【2024夏を走る・10】パリオリンピックも開幕し、日本代表選手たちも熱い戦いを繰り広げています。一方、日本も連日の猛暑で、その暑さに疲弊しています……。

そんな中、千葉県にある順天堂大学で選手たちの測定を実施しました。測定した項目は前回と同じで、トレッドミル上を走りながら乳酸カーブなどを測定しました。そして、今回の測定も前回同様、同大学大学院スポーツ健康科学研究科教授、町田先生のご支援ご指導のもと、無事に実施することができました。あらためて、御礼申し上げます。

今回の測定は、パリパラマラソン日本代表選手を優先しましたが、疲労が蓄積している選手は測定自体を回避しました。もちろん、測定を実施した選手たちも同様、疲労がかなり蓄積した状態でした(走り込みの真っ只中)。

また、測定と聞くと、常に前回の数値と比較し、「上がったか?下がったか?」だけに一喜一憂するケースが多いのですが、確かにそれも大切な見方です。ところが、今回のように、測定前から疲労が蓄積していることを、どの選手も自覚している場合、前回の数値よりも下がる可能性が高くなることは、はじめから予測できます。

だからと言って、計画していた測定を簡単に中止する必要はないと考えます。そもそも測定は、身体の状態を数値化することであり、可視化することです。つまり、測定前に自分自身で今の状態を主観的に数値化(予測)し、実際の数値と比較検証することも大切な見方だからです。

その結果、測定前に予測した数値と実測した数値との差異が少ない選手ほど、自分自身の状態をより正確に把握する能力が高いことにもなります。これは、とても大切な能力のひとつであり、日々のトレーニングを適切な強度で継続できることにもつながります。

至極当然のことながら、実際のレース中は心拍数や血中乳酸濃度などの数値を正確に測定しながら勝負することは相当難しい。つまり、レース中は適切なペース設定やペース配分、ライバルと比較した際の余裕度など、勝負していく上でも「主観的運動強度」は大切な指標になります。

特に、夏マラソンの場合、主観的に自分自身の状態を把握しながらレースを進めていく能力が勝敗を大きく左右すると考えます。今回の測定で、たんに数値の良し悪しだけでなく、測定前の主観的数値(予測)と測定後の実績数値との差異を考察し、その結果をパリパラマラソンにつなげてほしいと考えます。

2024夏を走る・9

【2024夏を走る・9】予想どおりと言うか、予報どおりの猛暑が続きましたが、千葉県富津市での強化合宿を終えることができました。合宿中の気温は連日30度を超え、さらに湿度が70%前後で推移していたのが、選手たちをより過酷な状況に追いやっていました。

強化合宿中の具体的なポイント練習は、「40k走(距離走)」「インターバル(スピード)」「16k走(ペース走)」の3回(3日)。しかし、上記したとおり、3回とも気温は30度を超え、湿度も70%を超える過酷なコンディションでした。

本来なら気温が30度を超えている時点で、ランニングどころか屋外での運動は禁止です。したがって、気温が30度を超える過酷なコンディション下における「正しいマラソントレーニング理論」など、原則として存在しないのです。少なくとも私自身は見たことがありません。

もちろん、それに近い理論はあります。暑さ対策の専門事例として「暑熱順化」「給水」「手掌冷却」「深部体温」などなど、猛暑の中で体を動かし続けるための理論と言うよりも、先人たちの経験から導かれたノウハウは多数存在します。

ところが、これらの対策をほどこしてもその効果は個々によって大きく異なり、そもそも暑さに強い身体(個体)なのか否かになります。あくまでも私の主観ですが、夏マラソンに長くかかわっていると、そもそも暑さに強い弱いは生まれた場所(暑い地域か寒い地域か)や、生まれた月(夏なのか冬なのか)など、幼少期の生活環境にも左右されていると感じます。

さらに、暑さ対策の技術的な項目のひとつにランニングフォームがあります。いわゆるランニングエコノミーと言われる部分です。これは単にフォームがキレイとかではなく、コンパクトな動きが身についているか否かです。

これも私の主観ですが、いわゆる「力強い走り」をしているランナーは意外と暑さに弱い……。その具体例のひとつに、腕振りが力強く(前後に大きく振る)、腕振りの力で前に進んでいるようなフォームのランナーはそれに該当します。逆に、体幹に近い位置で、コンパクトにリズムをとるような腕振り(腕を大きく振らない)のランナーは、暑い中でも安定した走りが持続できるように感じます。

しかし、これが冬マラソンの場合、力強いフォームのランナーは、30k以降の苦しい局面では粘り強さを発揮します。ところが、夏マラソンの場合、その力強いフォームがゆえに、逆に筋肉の発熱と発汗を促進させ、前半から深部体温の上昇や脱水に陥る傾向が強くなるのでしょうか。

もちろん、これらについても正確なことはわかりませんが、言えることは何度経験しても「夏マラソンを攻略していくこと」は難しい……。

2024夏を走る・8

【2024夏を走る・8】関東地方も梅雨が明け、連日30度を超える猛暑です。いよいよ本格的な夏の到来でしょうか。そんな中、本日から千葉県富津市富津公園においてパリパラ強化合宿を実施します。

本来なら涼しい場所で合宿をしますが、あえて暑い千葉県で実施します。その目的は、暑さ対策になります。専門的な話は割愛しますが、一度は暑熱順化した身体も、長期間涼しい場所にいると、その効果はどんどん薄まっていくと言われています。

パリパラマラソン代表選手たちは、今月の前半は北海道北見市で強化合宿を実施しましたが、このタイミングでもう一度暑い中で走り込んで、身体を暑熱順化させます。もちろん、無理をして調子を崩すようなことはしませんが、暑さに慣れるためには、科学的と言うよりも根性論寄りのトレーニングが推奨されています(そもそも気温が30度を超える中で運動をしていはいけない)。

実際に暑熱対策の専門的な話を見聞しても、最終的には「気持ちの持ち方」「慣れるまで我慢」など、「そんなんで大丈夫かな?」と思ってしまう文献などが多いと感じます(繰り返しになりますが、気温が30度を超える中で運動をしてはいけない)。しかし、何年も夏マラソン対策のトレーニングを繰り返し、その経験を重ねてくると「確かにそのとおりだ」と、腑に落ちます。

また、8月から9月上旬のパリの気温は、日本ほど暑くなりません。少なくとも過去のデータ上では……。しかし、最近の異常気象を受け、パリをはじめヨーロッパは熱波の影響で40度を超える日があったりもします。要は、パリパラマラソン代表選手たちがパリ入りした時、「ここは涼しくて快適だ」と、思える状態に仕上がっていれば、個々の目標を達成できる確率は高くなります。

そして、今日からの千葉県富津市での強化合宿を終えると、8月は再び北海道北見市で合宿を実施します。そのあとは、長野県上田市菅平高原に移動し、8月下旬は、千葉県富津市で最後の調整合宿を……。そして、そのままパリへ飛ぶ予定です。

さて、9月8日のパリパラマラソン当日から逆算すると、ある程度の量(距離)を追える最後の強化期間に入ります。富津強化合宿2日目となる明日は、早朝6時スタートで「40k走」を予定しています。この期間に入って、パリパラ代表選手たちの走りを見るのは、いろいろな意味で緊張もします。

そんな中、上記したように身体が暑さに順化しているか否かよりも、気温が30度の中でも「たいした暑さではない」と、選手たちが心の中で思いながら走れる状態になっていれば合格です。そこを今日からの強化合宿で見ていきたい。

2024夏を走る・7

【2024夏を走る・7】パリパラマラソンのちょうど2ヵ月前に当たるこの日程で実施した北海道北見市での強化合宿は無事に終了しました。その合宿中の主なポイント練習は42k走を3本。さらに、ホクレンディスタンス北見大会と網走大会の5000mに出場。

毎年のことながら、この7月の北見合宿はかなりハードな内容になりました。特に、40k以上の長距離を短期間で3本走ることは、設定タイムを抑えて走ったとしても相応のダメージが蓄積されていきます。そのイメージとしては、まさに「じわじわと真綿でしめていく」。そんな感じでしょうか。

至極当然のことながら、マラソンに向けたトレーニング方法は様々で、どれが正しいかの判断がつかないのは、いつの時代も同じです。その中においても、特に夏マラソンに特化した的確なトレーニング方法や理論を目にすることは、ほとんどありません。

ましてや4年に1回しか開催されないオリパラマラソンに対する専門的なノウハウを見聞することなど、なおさら難しいことです。かくいう私は、4年に1回のパラマラソンにかかわるのは、今回のパリパラで8回目になります。

もちろん、私自身が夏マラソンに向けた確固たるトレーニング理論などを持っているわけではありません。しかし、長くかかわってきた分、暑い中で走り込むためには「どの程度の強度で、どの程度の距離を走るとどうなるのか?」は多少経験してきましたが……。

その中においてひとつ言えることは、指示している側(監督やコーチ)がどれだけ我慢できるか否か。つまり「こんなに暑い中で走らせて良いのか?」「こんなに遅い設定タイムで意味があるのか?」など、どうしても冬マラソンと比較し、選手のシャープな動きや速い設定タイムなどを追いかけてしまうからです。

また、「涼しい時間帯で走る方が身体への負担がすくない」「量より質を上げた方が良い」など夏のトレーニングにおいてはよく見聞しますが……。実は、これまでの経験から夏マラソン攻略にはあまり効果的ではないかもしれないと、個人的に思うトレーニング方法も多々あります……。

そもそも、気温が30度をこえる中で運動すること自体が命の危険にさらされます。ましてやマラソンなど……。しかし、そんな過酷な状況下で、日本代表選手として日の丸をつけ、メダル獲得を目指してマラソンを走るためには「何をどうするのか?」。

パリパラマラソンまであと2ヵ月。しっかりと取り組んでいきます。

2024夏を走る・6

【2024夏を走る・6】7月3日から北海道北見市で強化合宿を実施しております。毎年のことながら、北見市の皆様をはじめとする多くの方々のご理解とご支援により、今年も強化合宿を実施することができました。あらためて、厚く御礼申し上げます。

また、今回の強化合宿はパリパラマラソンに向けた最重点合宿のひとつでもあり、特に日本代表に選考された選手たちは、メダル獲得を目標に意欲的に走り込んでいます。具体的には、本日までの合宿前半で、40k走を2本。そして、ホクレンディスタンス北見大会の5000mに出場。

さて、今回のパリパラマラソン代表枠を獲得するための基準が、WPAの不手際により最後まで迷走しました。そのため、東京パラマラソンで金メダルを獲得した女子の道下選手と銅メダルを獲得した男子の堀越選手(他の選手も)は、パリパラマラソンの代表枠獲得のため、4月の「かすみがうらマラソン」も走らざるを得ない状況に追い込まれました。

大会当日は、想定どおりの暑さが選手たちを苦しめ、消耗戦となる激しいレースになりました。しかし、両選手ともパリパラマラソン日本代表につながる記録でフィニッシュ。ところが、懸念していたとおりのダメージが身体にも残り……。

結局6月から開始したパリパラマラソンに向けた走り込みにもその影響を引きずっていました。しかし、前述した3回のポイント練習は何とか無事に消化することができました。特に、パリパラマラソン代表に選考された選手たちは、パラマラソンの経験もあり、ここまで多くの困難を乗り越えてきた実績があります。

そのパラマラソンは、いわゆる夏マラソンであり、速さよりも強さが求められます。そして、その強さの裏付けは経験になります。その経験は、単に夏マラソンを走ったことだけでなく、その夏マラソンに向けたトレーニングの経験と実績が重要になります。

8月後半から9月前半に開催予定のマラソンを目標にした場合、多くは5月から6月に本格的なマラソントレーニングを開始します。つまり、夏マラソンで戦うためには、気温や湿度がどんどん高くなっていく春から夏に向かって、トレーニングの量と質を上げていく過酷な作業にもなります。

さらに、9月8日に開催予定のパリパラマラソンのコースは、鋭角に曲がる箇所や石畳の路面が多く、そのうえ小刻みなアップダウンが連続する難コース。それらの点を踏まえると、これまでのパラマラソン以上にスタミナ強化がメダル獲得へのカギとなります。

今回の強化合宿後半は、ホクレンディスタンス網走大会で5000mを走り、翌日に3本目の40k走を実施予定です。そして、夏マラソンを攻略する最大のポイントである「ナタの切れ味」を身につけるため、今回の強化合宿から8月14日までの間、さらに走り込む量を増やしていきます。

※写真:選手たちが走っている両端の雑草は我々の練習日程に合わせ、地元の関係者が除草作業など、コース整備を行っているのです(毎年)。感謝です!

2024夏を走る・5

【2024夏を走る・5】今年も半年が過ぎ、来週から7月に入ります。今月から9月8日のパリパラマラソンに向けた本格的な走り込みを開始していますが、ひと月が過ぎました……。また、6月は長野県上田市菅平高原で走り込んできましたが、7月は北海道北見市に場所を移します。

あらためて、オリパラは夏に開催され、どの競技も記録よりも順位が重視されます。したがって、冬マラソンを目指す取り組みとは目標設定の考え方が異なります。もちろん、冬マラソンでも優勝を目標にすることは同じですが……。

まず、冬マラソンと夏マラソンを目標にした場合、どちらも目標タイムの設定が最初になります。しかし、ここで大きく異なる点として、冬マラソンは「自己記録の更新」が最大の目標となり、自己記録の更新がそのまま優勝を狙えるタイムなら、目標設定は「自己新記録で優勝」にもなります。

ところが、夏に開催されるパラマラソンの場合、そもそも夏マラソンで自己記録を更新することはかなり難しく、暑い中で冬マラソンのようなトレーニングを積んでいくこと自体も難しい。したがって、目標タイムは「メダル獲得(入賞)」をターゲットにした設定タイムになります。

もちろん、夏マラソンでも自己記録更新を目標にすることは可能ですが、冬マラソンのような量と質の両面から追い込むトレーニング自体が相当難しい。仮に涼しい場所でトレーニングを消化できても、どこかのタイミングで必ず暑さに慣れる必要があり、そのタイミングの見極めが難しく、直前に暑さで調子を崩すケースは多いのです。

参考までに、2021年9月5日に開催された東京パラマラソンにおいてもメダル獲得ターゲットタイム(※)を計算し、そのタイムを狙える走り込みの量と質を見極めながら取り組みました。ところが、大会数日前の天気予報は当日の天候が雨(低温)……。したがって、最後の全体ミーティングにおいて、男女ともメダル獲得ターゲットタイムを上方修正し、各選手とも共有しました。

具体的には、女子は「3時間00分59秒」を金メダル獲得ターゲットタイムとし、道下選手が「3時間00分50秒」で金メダルを獲得。男子は「2時間28分10秒」をメダル獲得ターゲットタイムとし、堀越選手が「2時間28分1秒」で銅メダルを獲得。

今回のパリパラマラソンに向けたメダル獲得ターゲットタイムはすでに計算しており、そのタイムを目標に走り込みを開始しています。もちろん、前述したとおり、そのタイムは自己記録更新ではありません。つまり、メダル獲得に自己記録更新が必須であるなら、パリパラマラソン(夏マラソン)でのメダル獲得は極めて難しいことになります。

要は、いわゆる冬マラソンと夏マラソンの攻略方法が異なる点をよく理解(経験)していないと、夏マラソンは単に疲労を残すだけのトレーニングに陥ってしまうリスクが高いのです。至極当然のことながら、選手は少しでも良いタイムを出したいので、暑くても寒くても自身を追い込みます。そこをいかにしてコントロールしていけるかが……。

※メダル獲得を確約した設定タイムではありません。

2024夏を走る・4

【2024夏を走る・4】長野県上田市の菅平高原において実施していた強化合宿は終了し、計画どおりに距離走を2回実施。しかし、2回目の距離走はあいにくの雨模様となりました。

一般的には、6月に入ると気温も高くなってくるので、逆に雨の中は走り易いと感じます。ところが、菅平高原のように標高が高い場所では、天候が悪化すると平地以上に気温が下がります。つまり、冬の冷雨に近い状況になることがあります。

今回、2回目の距離走はまさにそんなコンディションとなり、スタート前に懸念していた低体温症に陥る選手もいました。実は、平地の暑さを避け、涼しい高原でしっかりと走り込むことが目的なのに、涼しくなり過ぎて逆に走れなくなることもあるのです。

そして、7月の強化合宿は北海道北見市で実施しますが、やはり同じようなことが過去にありました……。

今や北海道と言っても温暖化の影響でしょうか、日中の気温が30度を超える日は普通です。それどころか、北海道北見市での合宿中に気温が38度に達したこともあり、もはや国内の夏はどこでも平等に暑い。

ところが、天候が崩れて雨になると、気温が極端に下がるときがあります。数年前の北海道北見市での強化合宿中(8月)、天候が雨で気温も10度前後だったことがありました。そして、その日の練習がたまたま距離走。案の定、低体温症に陥る選手がいました。

このように、一般的に涼しいと言われている場所ほど、逆に寒暖の差が激しくなってきているのかもしれません。つまり、体調管理がこれまで以上に難しくなってきているとも言えます。

さて、2021年9月5日に開催された東京パラマラソン当日の天候は雨でした。我々は気温が30度をはるかに超える中での勝負を想定し、暑熱対策に重点を置いて強化してきました。ところが、当日の天候は雨。そして、気温はたったの20度でした……。

今年の9月8日に開催予定のパリパラマラソン当日の天候は誰にもわかりません。もちろん、暑い中での勝負を想定しながら強化していきますが……。真夏の走り込み中に経験した低体温症も決して無駄にならないほど、先の読めない異常気象なのかもしれません……。

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