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ロンドンパラリンピックへの道・13

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【ロンドンパラリンピックへの道・13】先日の8月3日(金)から8月5日(日)にかけ長野県菅平高原において、ロンドンパラリンピック強化合宿を実施しました。今回の合宿はロンドンパラリンピックに向けた最後の合同合宿でした。

さて、現在開催中のロンドンオリンピックも後半に入ってきましたが、何よりも日本選手の活躍が目を引きます。それに対し、偉そうなコメントはできませんが、競技団体毎に長期展望に立った計画的な強化や最先端の技術を駆使した成果であることに違いありません。そして、それ以上に狙ったレースや対戦に調子を合わせる「ピーキング」の精度に驚きます。

過去のオリンピックを振り返ってみても、「自己新だったらメダルがとれた」とか、「怪我が無ければメダルだった」等、「タラ、レバ」のコメントに終始する姿が多かったように感じます。しかし、今回のオリンピックは逆に劣勢な下馬評を覆し、見事にメダルを獲得しているシーンが多く、たくさんの勇気や感動を与えています。

そして、そのオリンピック後に開幕するパラリンピックも1ヵ月弱に迫ってきました。オリンピックで熱戦を繰り広げている日本代表選手のように、素晴らしいパフォーマンスをあの大舞台で発揮するための重要な最終調整期に入っていきます。

同時に、狙ったところに調子を合わせるピーキングに移っていきますが、その難しさは誰もが感じているところであり、ここからが本当の勝負です。ピーキングについては、あらためて説明するまでもありませんが、肉体的な部分よりメンタル的な部分に大きく影響を受けると、少なくとも私は感じます。

その具体例として、大会1週間前に突然猛練習を実施したり、日ごろ受けたことのない新しい治療やサプリメントを試したりと、どんな種目の選手でも狙った大会が近づくにしたがって、大なり小なり精神的に不安定な状況に陥っていきます。その結果、調子や体調を崩し、あるいは大きな故障をしたりと、取り返しのつかない状況に追い込まれるケースは意外と多いのです。※私は「不安症候群」と呼んでいます。

そんなメンタル的には不安定な時期に入りましたが、今回の菅平合宿では選手毎にトレーニング内容や設定タイムに相違があり、それぞれが個々の調整時期に入っていきました。もちろん、この合宿そのものに参加せず、独自のトレーニング計画に沿って調整している選手もいます。

具体的な合宿の内容として、弱視の岡村選手は最後の40k走に挑み、全盲の和田選手は逆に質を重視した内容にシフトしていました。また、この合宿に参加しなかった代表選手たちもそれぞれの計画に沿ったトレーニングをキッチリと消化しております。

このように、それぞれが自分自身の調整計画に沿って淡々と消化していくことこそが重要です。これからロンドンパラリンピックに向け、周囲からの期待やプレッシャーをうまく受け流しつつ、いつもと変わらぬ調整を貫いてほしいと願っています。

そして、最終調整期のポイントは、「迷ったら休養」です。

最後になりましたが、あらためて皆様方の絶大なるご声援をお願い申し上げます。

おわり。

ロンドンパラリンピックへの道・12

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【ロンドンパラリンピックへの道・12】いよいよロンドンオリンピック開幕が迫ってきました。もちろん、オリンピックの後はパラリンピックです。パラリンピック日本代表選手たちもこれから最後の調整段階に入っていきます。

先日の7月14日(土)から7月22日(日)の日程で、北海道深川市においてロンドンパラリンピック陸上競技に出場する日本代表合宿がおこなわれています。選手はもちろん、スタッフたちもそれぞれのスケジュールを調整しながらこの合宿に参加しています。

視覚障害の長距離マラソン代表選手の3選手は、14日から2泊3日の日程で参加し、トラック種目に出場する弱視の堀越選手については、最終日の22日まで頑張ります。

さて、ここで陸上競技日本代表選手の障害クラス別の人数を大まかに紹介しておきます。はじめに、上記合宿現在の陸上競技日本代表人数は合計36名。その内、車イス選手が18名、立位選手が18名となっており、その18名の中で視覚障害選手は6名です。

更に、視覚障害選手6名の内、2名が女子選手で、残りの4名は長距離マラソン選手です。したがって、この6名以外で陸上競技日本代表に選考された視覚障害選手はいません。

実は、立位の視覚障害クラスや切断クラスの記録は年々レベルアップしており、どの種目も健常者の記録と遜色なく、かなりのレベルに到達しております。そのため、オリンピック同様、立位選手がトラック種目でのパラリンピック出場は極めて難しい状況になりつつあります。

また、視覚障害クラスの全盲選手につていは、伴走者をはじめ日々のトレーニングをサポートしてくれる協力者が必要不可欠であり、その人材を確保できるか否かが最初に高いハードルになっています。

今回、日本代表選手に選考された全盲クラスの高橋選手と和田選手についても、「日々の伴走者をどのように確保するか?」を、常に悩みながらのトレーニングとなっています。至極当然のことながら選手にとっては相当なストレスであり、選手生命に直結する重要な問題でもあります。

特に、全盲の和田選手は、1500mにもエントリーしております。和田選手のベスト記録は、「4分19秒」ですが、4分10秒前後の記録も狙えるレベルにまで到達しています。ところが、このレベルの選手を伴走するには、1500mで3分台相当の走力が求められてきます。ご存知のとおり、ランニングブームの到来でランナー人口は爆発的に増加していますが、1500mを3分台で走れる市民ランナーは全国的に見てもほぼ皆無と言ってよいでしょう。

このように、パラリンピックに出場する視覚障害選手の走力は確実に上がっていますが、それを本当にサポートできる環境は不十分と言うのが現状です。

しかし、パラリンピックに出場することで、それぞれの選手にとっては、障害者スポーツを世間に知ってもらう一番の舞台であることに違いありません。そして何より、パラリンピックの舞台で選手自身が最高のパフォーマンスを発揮することが、今後のトレーニング環境改善や次世代育成へとつながっていくのです。

つづく。

ロンドンパラリンピックへの道・11

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7月3日、ロンドンパラリンピック日本代表選手及び役員の公式発表がありました。日本盲人マラソン協会の強化指定選手からは、4名の選手が選出されました。

◆T12クラス(弱視):岡村正広、堀越信司。◆T11クラス(全盲):和田伸也、高橋勇市。

エントリー種目は、高橋選手はマラソンのみの出場ですが、パラリンピック3大会連続出場。堀越選手は、トラック種目のみの出場で、北京パラリンピックからの2大会連続出場となります。そして、岡村選手と和田選手は初めてのパラリンピック出場となりますが、マラソンとトラック種目のとちらにもエントリーします。

さて、4年前の北京パラリンピックでは、障害クラスの統廃合が実施された影響もあり、メダル獲得はおろか入賞すらできず、本当に悔しい思いで帰国したことを今でも鮮明に覚えています。そして、その悔しい思いを決して忘れることなく、この4年間は地道にかつ冷静に強化を継続してきました。

しかし、今回のロンドンパラリンピックでは前回の北京大会と同じく、視覚障害者マラソンはT12クラスのみの実施となります。したがって、T11クラスの和田選手と高橋選手は前大会同様、障害の軽い選手たちと勝負する厳しい状況は変わりませんが、入賞ラインは視野に入っています。そして何より、T12クラスの岡村選手がチームジャパンとしては、2大会ぶりのメダル獲得を狙える位置までに仕上がってきました。

また、T11クラスの和田選手は、トラック種目の1500mと5000mにも出場します。しかも両種目とも上位入賞を目指せる記録を残しています。大いに期待のかかるところですが、歴代のオリンピック選手を振り返っても、トラックの1500mからロードのマラソンまでを同時に走りこなした選手はほとんど皆無です。

なぜなら、若いころは短い距離でスピードを養成し、少しずつ距離をのばしながらマラソンに移行していくスタイルが一般的だからです。ところが、和田選手の場合、最初からマラソンを目指しました。その結果、マラソンをしっかりと走り切れる強靭なスタミナと脚力が身についていきました。

そして、ここからが和田選手の特徴的なところで、マラソンを走り切れる強靭なスタミナと脚力が身についたことで、質の高いトラックでのスピード練習がどんどん消化できるようになりました。その結果、この1年間で和田選手が潜在的に持っていたスピードが、一気に開花してきたのです。

特に、近年のトラック種目で世界と対等に勝負を挑める日本選手は、オリンピック選手を含めても稀です。今回トラック種目に出場する和田選手や堀越選手の活躍を大いに期待したいと思います。

この4年間でロンドンパラリンピック代表選手に選出された上記4選手とは、多くの強化合宿を共にしてきました。4年前の北京大会と比較してもその成長ぶりは一目瞭然です。ロンドンパラリンピックではそれぞれが持ち味を発揮し、「チームジャパン」として世界と対等に勝負してくれるに違いありません。

皆様方の絶大なるご声援をよろしくお願い申し上げます。

ロンドンパラリンピックへの道・10

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6月2日(土)から6月3日(日)の日程で、ジャパンパラ陸上競技大会が大阪長居陸上競技場で開催されました。そして、この大会が、ロンドンパラリンピック日本代表選手決定前、最後の大会となります。そのため、たくさんのマスコミ関係者も駆けつけ、各種目で多くの好記録が誕生しました。

日本盲人マラソン協会の強化指定選手たちも5000mと1500mに出場。特に、最終日の1500mはどの選手も力を出し切り、内容のある素晴らしいレースを披露してくれました。

◆全盲1500m(T11クラス):和田選手/4分19秒94(◎日本新記録)、谷口選手/4分28秒31(◎自己新記録)、加治佐選手/4分37秒34(◎自己新記録)。◆弱視1500m(T12クラス):堀越選手/4分7秒38(◎大会新記録)、熊谷選手/4分19秒74(〇自己新記録)。※注).◎=ロンドンパラリンピック参加A標準記録突破、〇=ロンドンパラリンピック参加B標準記録突破。

しかし、今大会での個人記録はロンドンパラリンピックの代表選考会議に反映されないと、通達されていました。したがって、この大会で初めてA標準記録に到達した選手たちが、日本代表選手に選出される可能性はほとんどありません。※詳細については割愛します。

4年に1回開催されるオリンピックやパラリンピックでは、調子のピークを4年間の中でどのような大会に合わせていくのかはとても重要になります。このブログでも記載している「期分け」シリーズのように、1年間を期分けするのでなく、4年間をどのように過ごしていくかの長期的な期分けが必要になるからです。

具体例として、オリンピックイヤーの年は必ず不調だが、その翌年は物凄い記録をマークする選手は意外に多いと感じます。ところが、オリンピックイヤー以外の年は故障や怪我を繰り返しているにも関わらず、オリンピックイヤーの年にキッチリと調子を上げて代表の座を射止める選手は少ないのです。

このように4年間をひとつの期としてとらえると、4年スパンのピーキングをうまく合わせられる選手とそうでない選手が必ずでてきます。それは、単に記録を持っているとか、単に勝負強いと言った単純な話しではないと考えます。

今回快走した視覚障害者選手たちの中にも、調子のピークをあと3ヵ月早くつくっていれば、日本代表に手の届いた選手もいたと思います。この点については、強化を担当している立場として責任を感じております。

しかし、4年後に再びパラリンピックは開催されます。ロンドンパラリンピック日本代表に選考されなかった選手たちにとっては、これからの4年間をどのようにトレーニングを積み上げていくのかを考えることが、今現在の重要な課題のひとつとなります。

ここまでの4年間を振り返ったとき、単にトレーニング内容だけでなく、もっと大きな視点に立ったトレーニングの流れがどうだったのかを振り返り、4年後のパラリンピックを目指してほしいと願っています。

つづく。

ロンドンパラリンピックへの道・9

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ロンドンオリンピック日本代表選手を目指している国内トップクラスの選手達が多数出場する伝統の「第54回東日本実業団陸上競技選手権大会」が、埼玉県熊谷市で開催されました。

そして、この大会プログラムに初めて「視覚障害者1500m」の部を組み込んでいただきました。このような一般のメジャー大会の中で視覚障害者種目が一緒に実施されることは、国内ではほとんど例がありません。あらためて関係各位のご理解ご尽力に感謝申し上げます。

さて、今回の視覚障害者1500mには、男子選手7名、女子選手1名の視覚障害者選手が出場しました。そして、男子選手については7選手中6選手が、日本盲人マラソン協会の強化指定選手です。これまで地道に強化してきた成果を一般の方々にもアピールできる絶好のチャンスでもあります。

結果は、その6選手全員が5分以内でゴールし、上位6位までを占めることができました。特に、2位と3位でゴールした全盲クラスの和田選手と谷口選手は、ロンドンパラリンピック参加A標準記録である4分38秒00を突破する4分24秒10と4分32秒33でのゴールでした。

残念ながら、今回の記録はロンドンパラリンピックの公式記録に該当しませんが、オリンピックを目指している多数の選手や関係者が注視する前で力を発揮できたことは、大きな自信となったに違いありません。

また、このブログでも取り上げてきましたが、視覚障害者選手が伴走者と一緒に並走する姿は迫力があります。特に、スピード感のあるトラックでのレースはなおさらです。そんな勇姿を披露できたことは、単に視覚障害者1500mと言う種目だけでなく、障害者スポーツを理解していただく意味でも意義深いことでした。

参考までに、和田選手の公式自己ベスト記録は、4分26秒84です。この記録が現在の日本記録ですが、和田選手は非公式ながら今年の4月に4分20秒90で走っています。このレベルに到達してくると、日々のトレーニングを含め伴走者の確保が最大の悩みとなってきます。

しかし、世界に目を向けると、和田選手と同じ全盲クラスの世界記録は、ブラジルのサントス選手がつい先日マークした4分2秒97と、驚異的です。この世界との差を少しでも短縮するため、今回の貴重な経験を選手と共に、今後のトレーニングとレースに活かしていく所存です。

引き続き、皆様方の絶大なるご声援をよろしくお願い申し上げます。

つづく。

ロンドンパラリンピックへの道・8

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GW後半の5月3日から5月5日の日程で、盲人マラソン強化合宿を実施しました。場所は千葉県富津市富津公園です。この富津公園で強化合宿を実施するようになって早7年目となりました。この富津公園は既にご存知のとおり、箱根駅伝を目指す大学やオリンピックを目指している実業団チームも多数拠点にしています。そんな富津で我々も強化合宿できることをとても誇りに感じております。

あらためて、富津の方々をはじめ関係各位のご理解ご協力に対し、心より感謝申し上げます。

さて、富津で強化合宿を重ねてきた成果として、昨年のIPC世界陸上競技選手権大会では、全盲と弱視のマラソンでそれぞれ銅メダルを獲得することができました。特に、2004年のアテネパラリンピック以降、世界のレベルから取り残されてきた感のあった全盲クラスの選手たちが、再び勢いを取り戻してきました。

具体的には、マラソンを目指す上で重要な指標となるトラック種目での躍進がめざましく、1500mでは4分20秒から4分30秒、5000mでも16分の壁に肉薄してきました。もちろん、これらの記録はロンドンパラリンピックA標準記録を突破していますが、現時点で日本代表選手に選出されるか否かは、わかりません。しかし、世界レベルに到達してきたことは間違いありません。

同様に、上記のような全盲選手をサポートする伴走者の走力も相当なレベルになります。そのため、伴走者に対しても現時点の走力を重視することになり、人選に苦慮することが多くなってきました。更に、伴走者も選手同様、国際ルールや国際登録、ドーピング関係についてもより厳格になってきており、誰にでもお願いすることが難しくなってきているのも事実です。

今後は、ロンドンパラリンピックはもちろん、国際大会に通用する伴走者の育成や発掘等も重要な強化対策のひとつになっていきます。引き続き、この富津を拠点に地道な取り組みを継続していきますので、皆様方の絶大なるご理解ご支援をよろしくお願いします。

最後に、あらためて伴走ルールの重要な3点を記載しておきます。至極当然のことですが、伴走者がルール違反すると、共に走っている視覚障害者選手が即失格になります。

◆1).視覚障害者選手との距離は常に50センチ以内とする。但し、競技中のフィニッシュライン前10メートルにおいては、この距離をのばしてもよい。※この間は伴走ロープを離してもよい。◆2).いかなる場合も視覚障害者選手を引っ張ったり、押して前進させたりして推進を助けてはならない。※人以外の自転車やバイク、動物等と走ることは違反となる。◆3).視覚障害者選手がフィニッシュラインをこすとき、伴走者は視覚障害者選手の後方にいなくてはならない。※伴走者の方が胸ひとつでも先にゴールすると視覚障害者選手が失格となる。

つづく。

第22回かすみがうらマラソン大会

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「第22回かすみがうらマラソン大会」が、茨城県土浦市で2年ぶりに開催されました。この大会も回を重ねる度に規模は大きくなり、今年の参加者は何と2万7千名をこえ、国内3番目の大会へと成長しました。

また、この大会は国際盲人マラソン大会も兼ねており、特に今年はロンドンパラリンピック日本代表推薦選考でもありました。今回、その選考対象となる部門には7名の視覚障害者ランナーが挑戦しました。

日本人トップは、アテネパラリンピック金メダリストであるT11クラス(全盲)の高橋勇市選手でした。既に大ベテランの域に入っていますが、ここ一発の集中力と狙った大会に調子を合わせるピーキングは他の選手を圧倒していました。

その高橋選手のトレーニング方法は、狙ったマラソン大会に向け、たくさんのレースに出場していきます。そして、レースでの実戦をトレーニングと位置付けながら狙ったマラソン大会に調子を合わせていく調整で数々の実績を残してきた選手です。

一方、今大会の総合優勝は、あの川内優希選手でした。記録は2時間22分38秒と平凡でしたが、40kからの2.195kは6分9秒と、驚異的なスパートでカバーし、力の違いを見せつけました。しかし、実績のある選手が、格下のレースに出場すると様々な批判を受けるケースも多々あります。また、下手な成績を残すと、更に批判を受けるケースも多いので、実績を残せば残すほど好きなレースに出場していくことは難しくなります。

ところが、川内選手はそんな周りの言葉に惑わされることなく、自分自身のマラソンに対する理論と情熱で突き進んでいます。実は、全盲の高橋選手もこの点は似ていると感じます。

特に、レースを「質の高いトレーニング」と位置付け、思い通りのランニングライフを満喫しながらレベルの高い実績を残している点は二人に共通しています。

また、二人とも何かと話題の多い選手と感じますが、自分自身の考え方の軸が絶対にブレません。このメンタル面の強さこそが、数々の大きな実績を残してきた大きな要因のひとつに違いありません。

そして、これからも二人はマラソン界の常識を覆していくような快走を見せてくれることでしょう。

ロンドンパラリンピックへの道・7

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3月11日、ロンドンパラリンピックに向けた最も重要な大会のひとつである「九州チャレンジ陸上競技選手権大会」が、熊本県で開催されました。

この大会は、ロンドンパラリンピックの参加標準記録を目指せる国内最後の大会でした。ところが、あいにくの雨となり、短距離や跳躍系の種目はもちろん、車椅子選手にとっても厳しいコンディションとなりました。

これまで何度かこのブログでも記載しましたが、ロンドンパラリンピックに出場するための参加標準記録を公式に残すには、次の条件を満たす必要があります。◆1).選手が国際パラリンピック委員会(IPC)に選手登録をしている。◆2).選手が自分の障害を判定する国際クラス分けを受けており、「R」か「C」の認定を受けている。◆3).出場する大会がIPC公認の大会である。

最低でも上記3つの条件を満たしていないと、パラリンピックの参加標準記録を突破したとしても記録は公認されません。したがって、一般の日本陸連公認大会や各種選手権大会で参加標準記録を突破した場合、日本陸連としては公認されるが、パラリンピックとしては公認されない状況が発生します。

特に、視覚障害クラスや手足障害クラスの選手は、健常者の大会に出場している選手も多数います。具体的な例として、世界中から注目を集めている南アフリカのピストリウス選手(T43クラス/両下腿切断)は、健常者の世界選手権に出場するなど、その活躍は群を抜いています。※今現在、オリンピックを目指している一般の日本人選手の中でも彼より速い選手はひとりもいない。

ところが、一般の大会で大活躍したとしても、上記にある3番目の条件を満たしていない大会ならパラリンピックの公式記録としては公認されないのです。つまり、ピストリウス選手でもIPC公認大会で記録を残していなければ、オリンピックには出場できてもパラリンピックには出場できないことになります。

このように、パラリンピックに出場するための公認記録を残せる大会は世界的に見ても少なく、国内でも5つ程度です。そして、今大会はロンドンパラリンピックの参加標準記録を目指せる国内最後の大会でした。※障害者の国体は、IPC公認ではなく、パラリンピックとは全く関係のないローカル大会となる。

しかし、残念ながら今大会からロンドンパラリンピックにつながるような記録は・・・。

したがって、日本代表選手の決定は6月以降ですが、今大会でロンドンパラリンピックへの道が事実上閉ざされた選手も多数います。とても残念なことですが、次の大会に気持ちと身体をシフトさせてほしいと願っています。

さて、そのパラリンピックも2004年のアテネ大会あたりまでは、不慮の事故や疾患等で障害を負った人が突然パラリンピックに出場してくるケースもありました。しかし、2008年の北京大会を境に上記した3つの条件がより厳格になりました。その結果、パラリンピックに出場するための選手に課された記録以外のハードルが高くなり、一般のオリンピックのように記録だけに集中した対応だけでは、日本代表に選考できなくなりました。

今後の選手強化や普及として、単に競技力の向上だけに特化せず、パラリンピックに出場するための道筋をどのように示していくかも大きな課題のひとつになりそうです。

つづく。

ロンドンパラリンピックへの道・6

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先日の3月4日、「第34回千葉県民マラソン大会」が、千葉県富津市において開催されました。また、大会会場をこの富津市に移して5回目となります。そして、日本盲人マラソン協会の視覚障害者選手が特別招待として毎年参加できるようになったのも、この富津市に移ってからです。

あらためて、富津市の皆様をはじめ大会関係者の皆様に対し、厚く御礼申し上げます。

さて、少し手前味噌の話しになりますが、実は私も20代前半のころ、この大会で5連覇を達成したこともあり、マラソンへの足掛かりをつかんだ思い出深い大会です。そんなこの大会に今年は、3名の視覚障害者選手を参加させていただきました。もちろん、3選手とも今年のロンドンパラリンピック日本代表の有力候補選手です。

特に、T12クラス(弱視)の岡村正広選手は、昨年12月の福岡国際マラソン大会から好調をキープしており、今大会での快走も期待していました。

その岡村選手の視力は、見えている範囲が極端に狭くなる視野狭窄と、日が沈むとほとんど見えなくなる夜盲症があり、日々の練習にも大きな支障をきたしております。そんなハンディを持ちながらも地道な努力を積み重ね、昨年のIPC世界選手権大会のマラソンでは銅メダルを獲得しました。※一般的にも弱視者への理解や配慮は、全盲者よりも遅れている。

また、岡村選手は今年で42歳になりますが、肉体的な部分はもちろん、マラソンに対する意欲や情熱についても衰える気配すらありません。更に、身体のケアについては、自らの身体に自ら針治療を施しながら、常に万全の体調をキープしています。※岡村選手は千葉盲学校で針灸の教諭をしている。

そんな岡村選手は視覚障害者ランナーとしてだけでなく、富津練習会をはじめ共に練習を積み重ねている多くの市民ランナーたちが目標にしている貴重で憧れの存在でもあります。そして、今回の千葉県民マラソン大会でも全国高校駅伝大会に出場している強豪高校の選手たちと互角に競り合い、10kを31分2秒の驚異的な自己新記録でゴールを駆け抜けました。

今年の8月末から開催されるロンドンパラリンピックの日本代表選手発表は6月以降になります。もちろん、視覚障害者マラソンは岡村選手を軸にどの選手が代表選出されても、世界と勝負するための強化を積み重ねていく所存です。

皆様方の絶大なるご声援をよろしくお願い申し上げます。

ロンドンパラリンピックへの道・5

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2012年の今年は、いよいよロンドンオリンピックの年となりました。そして、オリンピックの後は、パラリンピックが同地において開催されます。また、このイギリスはパラリンピック(障害者スポーツ)発祥の地でもあり、今回のロンドンパラリンピックはより素晴らしい大会になると期待されています。

さて、そのロンドンパラリンピック日本代表を目指す視覚障害者選手と共に1月27日(金)から1月29日(日)の日程で、千葉県富津市において強化合宿を実施しました。また、今回の強化合宿は日本身障陸連が主催し、参加した選手はT11クラス(全盲)の和田選手、T12クラス(弱視)から岡村選手と堀越選手の計3名です。

3選手とも既にロンドンパラリンピック参加A標準記録を突破しております。しかし、ロンドンパラリンピックの日本代表選手に選出されるか否かの決定は、今年の6月以降となります。したがって、日本代表争いはかつてない厳しさが予想され、単にA標準記録を突破しているだけでは日本代表に選出されるのは難しい状況と言えます。

具体的には各種目の世界ランキングを目安に、メダル獲得や上位入賞争いにより近い記録を残していくことが、重要なポイントになってくると考えます。今回の合宿に参加した3選手とも、その点は十分に理解しており、積極的な姿勢で合宿に挑んでいました。

また、今回の合宿は日本身障陸連トレーナー部会からトレーナーの全日程帯同が実現しました。そして、トレーナーには日々の体調管理をお願いしたのはもちろんですが、特に腹筋や背筋のある体幹部についての筋力測定や強化の方法やポイントを指導していただきました。

私も現役時代そうでしたが、ランナーの多くはただ単にまっすぐ一定のペースで走り続けることが多いので、柔軟性や筋力がかたよっていく傾向にあります。その結果、慢性的な疲労や故障を抱える選手が多くなり、トレーニングの量や質を上げてもパフォーマンスが逆に低下していく、負の連鎖に陥っていく選手は多いと感じます。

もちろん、今回の合宿で指導いただいた様々なことが、ストレートに記録や成績に結びつくことは難しいと思います。しかし、自分自身の身体を違う視点から考えたり、評価していくことで、記録を短縮するためのヒントを得たに違いありません。

ところが、一方で3選手とも競技歴を重ねており、初心者のように分単位で記録を短縮することは、現実的には難しくなってきています。だからこそ、「あと1秒を短縮する」ための工夫や新しいトレーニング方法を取り込んでいくことも選択肢のひとつになります。そして同時に、それらを柔軟に対応できる決断や勇気も重要になり、これからはメンタル的な部分を強化していくことも必要不可欠になっていきます。

ロンドンパラリンピックに向け、皆様方の絶大なるご声援をよろしくお願いします。

つづく。

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