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パラリンピック

ロンドンパラリンピックへの道・10

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6月2日(土)から6月3日(日)の日程で、ジャパンパラ陸上競技大会が大阪長居陸上競技場で開催されました。そして、この大会が、ロンドンパラリンピック日本代表選手決定前、最後の大会となります。そのため、たくさんのマスコミ関係者も駆けつけ、各種目で多くの好記録が誕生しました。

日本盲人マラソン協会の強化指定選手たちも5000mと1500mに出場。特に、最終日の1500mはどの選手も力を出し切り、内容のある素晴らしいレースを披露してくれました。

◆全盲1500m(T11クラス):和田選手/4分19秒94(◎日本新記録)、谷口選手/4分28秒31(◎自己新記録)、加治佐選手/4分37秒34(◎自己新記録)。◆弱視1500m(T12クラス):堀越選手/4分7秒38(◎大会新記録)、熊谷選手/4分19秒74(〇自己新記録)。※注).◎=ロンドンパラリンピック参加A標準記録突破、〇=ロンドンパラリンピック参加B標準記録突破。

しかし、今大会での個人記録はロンドンパラリンピックの代表選考会議に反映されないと、通達されていました。したがって、この大会で初めてA標準記録に到達した選手たちが、日本代表選手に選出される可能性はほとんどありません。※詳細については割愛します。

4年に1回開催されるオリンピックやパラリンピックでは、調子のピークを4年間の中でどのような大会に合わせていくのかはとても重要になります。このブログでも記載している「期分け」シリーズのように、1年間を期分けするのでなく、4年間をどのように過ごしていくかの長期的な期分けが必要になるからです。

具体例として、オリンピックイヤーの年は必ず不調だが、その翌年は物凄い記録をマークする選手は意外に多いと感じます。ところが、オリンピックイヤー以外の年は故障や怪我を繰り返しているにも関わらず、オリンピックイヤーの年にキッチリと調子を上げて代表の座を射止める選手は少ないのです。

このように4年間をひとつの期としてとらえると、4年スパンのピーキングをうまく合わせられる選手とそうでない選手が必ずでてきます。それは、単に記録を持っているとか、単に勝負強いと言った単純な話しではないと考えます。

今回快走した視覚障害者選手たちの中にも、調子のピークをあと3ヵ月早くつくっていれば、日本代表に手の届いた選手もいたと思います。この点については、強化を担当している立場として責任を感じております。

しかし、4年後に再びパラリンピックは開催されます。ロンドンパラリンピック日本代表に選考されなかった選手たちにとっては、これからの4年間をどのようにトレーニングを積み上げていくのかを考えることが、今現在の重要な課題のひとつとなります。

ここまでの4年間を振り返ったとき、単にトレーニング内容だけでなく、もっと大きな視点に立ったトレーニングの流れがどうだったのかを振り返り、4年後のパラリンピックを目指してほしいと願っています。

つづく。

ロンドンパラリンピックへの道・9

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ロンドンオリンピック日本代表選手を目指している国内トップクラスの選手達が多数出場する伝統の「第54回東日本実業団陸上競技選手権大会」が、埼玉県熊谷市で開催されました。

そして、この大会プログラムに初めて「視覚障害者1500m」の部を組み込んでいただきました。このような一般のメジャー大会の中で視覚障害者種目が一緒に実施されることは、国内ではほとんど例がありません。あらためて関係各位のご理解ご尽力に感謝申し上げます。

さて、今回の視覚障害者1500mには、男子選手7名、女子選手1名の視覚障害者選手が出場しました。そして、男子選手については7選手中6選手が、日本盲人マラソン協会の強化指定選手です。これまで地道に強化してきた成果を一般の方々にもアピールできる絶好のチャンスでもあります。

結果は、その6選手全員が5分以内でゴールし、上位6位までを占めることができました。特に、2位と3位でゴールした全盲クラスの和田選手と谷口選手は、ロンドンパラリンピック参加A標準記録である4分38秒00を突破する4分24秒10と4分32秒33でのゴールでした。

残念ながら、今回の記録はロンドンパラリンピックの公式記録に該当しませんが、オリンピックを目指している多数の選手や関係者が注視する前で力を発揮できたことは、大きな自信となったに違いありません。

また、このブログでも取り上げてきましたが、視覚障害者選手が伴走者と一緒に並走する姿は迫力があります。特に、スピード感のあるトラックでのレースはなおさらです。そんな勇姿を披露できたことは、単に視覚障害者1500mと言う種目だけでなく、障害者スポーツを理解していただく意味でも意義深いことでした。

参考までに、和田選手の公式自己ベスト記録は、4分26秒84です。この記録が現在の日本記録ですが、和田選手は非公式ながら今年の4月に4分20秒90で走っています。このレベルに到達してくると、日々のトレーニングを含め伴走者の確保が最大の悩みとなってきます。

しかし、世界に目を向けると、和田選手と同じ全盲クラスの世界記録は、ブラジルのサントス選手がつい先日マークした4分2秒97と、驚異的です。この世界との差を少しでも短縮するため、今回の貴重な経験を選手と共に、今後のトレーニングとレースに活かしていく所存です。

引き続き、皆様方の絶大なるご声援をよろしくお願い申し上げます。

つづく。

ロンドンパラリンピックへの道・8

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GW後半の5月3日から5月5日の日程で、盲人マラソン強化合宿を実施しました。場所は千葉県富津市富津公園です。この富津公園で強化合宿を実施するようになって早7年目となりました。この富津公園は既にご存知のとおり、箱根駅伝を目指す大学やオリンピックを目指している実業団チームも多数拠点にしています。そんな富津で我々も強化合宿できることをとても誇りに感じております。

あらためて、富津の方々をはじめ関係各位のご理解ご協力に対し、心より感謝申し上げます。

さて、富津で強化合宿を重ねてきた成果として、昨年のIPC世界陸上競技選手権大会では、全盲と弱視のマラソンでそれぞれ銅メダルを獲得することができました。特に、2004年のアテネパラリンピック以降、世界のレベルから取り残されてきた感のあった全盲クラスの選手たちが、再び勢いを取り戻してきました。

具体的には、マラソンを目指す上で重要な指標となるトラック種目での躍進がめざましく、1500mでは4分20秒から4分30秒、5000mでも16分の壁に肉薄してきました。もちろん、これらの記録はロンドンパラリンピックA標準記録を突破していますが、現時点で日本代表選手に選出されるか否かは、わかりません。しかし、世界レベルに到達してきたことは間違いありません。

同様に、上記のような全盲選手をサポートする伴走者の走力も相当なレベルになります。そのため、伴走者に対しても現時点の走力を重視することになり、人選に苦慮することが多くなってきました。更に、伴走者も選手同様、国際ルールや国際登録、ドーピング関係についてもより厳格になってきており、誰にでもお願いすることが難しくなってきているのも事実です。

今後は、ロンドンパラリンピックはもちろん、国際大会に通用する伴走者の育成や発掘等も重要な強化対策のひとつになっていきます。引き続き、この富津を拠点に地道な取り組みを継続していきますので、皆様方の絶大なるご理解ご支援をよろしくお願いします。

最後に、あらためて伴走ルールの重要な3点を記載しておきます。至極当然のことですが、伴走者がルール違反すると、共に走っている視覚障害者選手が即失格になります。

◆1).視覚障害者選手との距離は常に50センチ以内とする。但し、競技中のフィニッシュライン前10メートルにおいては、この距離をのばしてもよい。※この間は伴走ロープを離してもよい。◆2).いかなる場合も視覚障害者選手を引っ張ったり、押して前進させたりして推進を助けてはならない。※人以外の自転車やバイク、動物等と走ることは違反となる。◆3).視覚障害者選手がフィニッシュラインをこすとき、伴走者は視覚障害者選手の後方にいなくてはならない。※伴走者の方が胸ひとつでも先にゴールすると視覚障害者選手が失格となる。

つづく。

ロンドンパラリンピックへの道・7

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3月11日、ロンドンパラリンピックに向けた最も重要な大会のひとつである「九州チャレンジ陸上競技選手権大会」が、熊本県で開催されました。

この大会は、ロンドンパラリンピックの参加標準記録を目指せる国内最後の大会でした。ところが、あいにくの雨となり、短距離や跳躍系の種目はもちろん、車椅子選手にとっても厳しいコンディションとなりました。

これまで何度かこのブログでも記載しましたが、ロンドンパラリンピックに出場するための参加標準記録を公式に残すには、次の条件を満たす必要があります。◆1).選手が国際パラリンピック委員会(IPC)に選手登録をしている。◆2).選手が自分の障害を判定する国際クラス分けを受けており、「R」か「C」の認定を受けている。◆3).出場する大会がIPC公認の大会である。

最低でも上記3つの条件を満たしていないと、パラリンピックの参加標準記録を突破したとしても記録は公認されません。したがって、一般の日本陸連公認大会や各種選手権大会で参加標準記録を突破した場合、日本陸連としては公認されるが、パラリンピックとしては公認されない状況が発生します。

特に、視覚障害クラスや手足障害クラスの選手は、健常者の大会に出場している選手も多数います。具体的な例として、世界中から注目を集めている南アフリカのピストリウス選手(T43クラス/両下腿切断)は、健常者の世界選手権に出場するなど、その活躍は群を抜いています。※今現在、オリンピックを目指している一般の日本人選手の中でも彼より速い選手はひとりもいない。

ところが、一般の大会で大活躍したとしても、上記にある3番目の条件を満たしていない大会ならパラリンピックの公式記録としては公認されないのです。つまり、ピストリウス選手でもIPC公認大会で記録を残していなければ、オリンピックには出場できてもパラリンピックには出場できないことになります。

このように、パラリンピックに出場するための公認記録を残せる大会は世界的に見ても少なく、国内でも5つ程度です。そして、今大会はロンドンパラリンピックの参加標準記録を目指せる国内最後の大会でした。※障害者の国体は、IPC公認ではなく、パラリンピックとは全く関係のないローカル大会となる。

しかし、残念ながら今大会からロンドンパラリンピックにつながるような記録は・・・。

したがって、日本代表選手の決定は6月以降ですが、今大会でロンドンパラリンピックへの道が事実上閉ざされた選手も多数います。とても残念なことですが、次の大会に気持ちと身体をシフトさせてほしいと願っています。

さて、そのパラリンピックも2004年のアテネ大会あたりまでは、不慮の事故や疾患等で障害を負った人が突然パラリンピックに出場してくるケースもありました。しかし、2008年の北京大会を境に上記した3つの条件がより厳格になりました。その結果、パラリンピックに出場するための選手に課された記録以外のハードルが高くなり、一般のオリンピックのように記録だけに集中した対応だけでは、日本代表に選考できなくなりました。

今後の選手強化や普及として、単に競技力の向上だけに特化せず、パラリンピックに出場するための道筋をどのように示していくかも大きな課題のひとつになりそうです。

つづく。

ロンドンパラリンピックへの道・6

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先日の3月4日、「第34回千葉県民マラソン大会」が、千葉県富津市において開催されました。また、大会会場をこの富津市に移して5回目となります。そして、日本盲人マラソン協会の視覚障害者選手が特別招待として毎年参加できるようになったのも、この富津市に移ってからです。

あらためて、富津市の皆様をはじめ大会関係者の皆様に対し、厚く御礼申し上げます。

さて、少し手前味噌の話しになりますが、実は私も20代前半のころ、この大会で5連覇を達成したこともあり、マラソンへの足掛かりをつかんだ思い出深い大会です。そんなこの大会に今年は、3名の視覚障害者選手を参加させていただきました。もちろん、3選手とも今年のロンドンパラリンピック日本代表の有力候補選手です。

特に、T12クラス(弱視)の岡村正広選手は、昨年12月の福岡国際マラソン大会から好調をキープしており、今大会での快走も期待していました。

その岡村選手の視力は、見えている範囲が極端に狭くなる視野狭窄と、日が沈むとほとんど見えなくなる夜盲症があり、日々の練習にも大きな支障をきたしております。そんなハンディを持ちながらも地道な努力を積み重ね、昨年のIPC世界選手権大会のマラソンでは銅メダルを獲得しました。※一般的にも弱視者への理解や配慮は、全盲者よりも遅れている。

また、岡村選手は今年で42歳になりますが、肉体的な部分はもちろん、マラソンに対する意欲や情熱についても衰える気配すらありません。更に、身体のケアについては、自らの身体に自ら針治療を施しながら、常に万全の体調をキープしています。※岡村選手は千葉盲学校で針灸の教諭をしている。

そんな岡村選手は視覚障害者ランナーとしてだけでなく、富津練習会をはじめ共に練習を積み重ねている多くの市民ランナーたちが目標にしている貴重で憧れの存在でもあります。そして、今回の千葉県民マラソン大会でも全国高校駅伝大会に出場している強豪高校の選手たちと互角に競り合い、10kを31分2秒の驚異的な自己新記録でゴールを駆け抜けました。

今年の8月末から開催されるロンドンパラリンピックの日本代表選手発表は6月以降になります。もちろん、視覚障害者マラソンは岡村選手を軸にどの選手が代表選出されても、世界と勝負するための強化を積み重ねていく所存です。

皆様方の絶大なるご声援をよろしくお願い申し上げます。

ロンドンパラリンピックへの道・5

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2012年の今年は、いよいよロンドンオリンピックの年となりました。そして、オリンピックの後は、パラリンピックが同地において開催されます。また、このイギリスはパラリンピック(障害者スポーツ)発祥の地でもあり、今回のロンドンパラリンピックはより素晴らしい大会になると期待されています。

さて、そのロンドンパラリンピック日本代表を目指す視覚障害者選手と共に1月27日(金)から1月29日(日)の日程で、千葉県富津市において強化合宿を実施しました。また、今回の強化合宿は日本身障陸連が主催し、参加した選手はT11クラス(全盲)の和田選手、T12クラス(弱視)から岡村選手と堀越選手の計3名です。

3選手とも既にロンドンパラリンピック参加A標準記録を突破しております。しかし、ロンドンパラリンピックの日本代表選手に選出されるか否かの決定は、今年の6月以降となります。したがって、日本代表争いはかつてない厳しさが予想され、単にA標準記録を突破しているだけでは日本代表に選出されるのは難しい状況と言えます。

具体的には各種目の世界ランキングを目安に、メダル獲得や上位入賞争いにより近い記録を残していくことが、重要なポイントになってくると考えます。今回の合宿に参加した3選手とも、その点は十分に理解しており、積極的な姿勢で合宿に挑んでいました。

また、今回の合宿は日本身障陸連トレーナー部会からトレーナーの全日程帯同が実現しました。そして、トレーナーには日々の体調管理をお願いしたのはもちろんですが、特に腹筋や背筋のある体幹部についての筋力測定や強化の方法やポイントを指導していただきました。

私も現役時代そうでしたが、ランナーの多くはただ単にまっすぐ一定のペースで走り続けることが多いので、柔軟性や筋力がかたよっていく傾向にあります。その結果、慢性的な疲労や故障を抱える選手が多くなり、トレーニングの量や質を上げてもパフォーマンスが逆に低下していく、負の連鎖に陥っていく選手は多いと感じます。

もちろん、今回の合宿で指導いただいた様々なことが、ストレートに記録や成績に結びつくことは難しいと思います。しかし、自分自身の身体を違う視点から考えたり、評価していくことで、記録を短縮するためのヒントを得たに違いありません。

ところが、一方で3選手とも競技歴を重ねており、初心者のように分単位で記録を短縮することは、現実的には難しくなってきています。だからこそ、「あと1秒を短縮する」ための工夫や新しいトレーニング方法を取り込んでいくことも選択肢のひとつになります。そして同時に、それらを柔軟に対応できる決断や勇気も重要になり、これからはメンタル的な部分を強化していくことも必要不可欠になっていきます。

ロンドンパラリンピックに向け、皆様方の絶大なるご声援をよろしくお願いします。

つづく。

ロンドンパラリンピックへの道・4

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10月10日(月・祝)、埼玉県上尾市において「第16回関東身体障害者陸上競技選手権大会」が開催されました。この大会はIPC公認大会となっており、来年開催されるロンドンパラリンピックに出場するための記録が公認される大会です。また、国内で開催されるロンドンパラリンピック参加標準記録を目指せる今年最後の大会となります。

既に何度かこのブログでも説明しておりますが、パラリンピックに出場するための参加標準記録を公認できる大会は国内はもちろん、世界的にも少ないのが現状です。そのため選手たちは少ないチャンスで記録を残す必要があります。したがって、どの選手にも求められるのは、狙った大会及びレースにしっかりと調子を合わせ、キッチリとパフォーマンスを発揮するための「ピーキング」となります。

もちろん、このピーキングを単に頭の中でイメージしたり、専門誌で勉強することは簡単なことですが、一般のオリンピックを目指している選手たちにとっても調子のピークを狙った大会に合わせることは至難の業です。

※参考までに10月22日から山口県で開催される全国障害者スポーツ大会はIPC公認大会ではないので、大会でのルールも記録もパラリンピックとは関係ありません。

今回、私はNTO(国内技術員)の研修員としてこの大会を細かく観察する機会を得ることができました。あらためて障害の種類や程度によって、同じ種目でもルールや技術的ポイントの違いが大きいことに驚きました。特に、これまで私自身が深く接してきた視覚障害者の競技については、フィールド種目を中心に多くのことを学びなおすことができました。

視覚障害者の走り幅跳びや走り高跳びである跳躍種目は、伴走者に相当するコーラーと呼ばれる人が、声や音で選手を踏切位置まで誘導します。例として視覚障害者の走り幅跳びは、コーラーが発する音の方向に単独で走っていき、そこにある踏切板(1m×1.22m)から空中に飛び出していきます。

至極当然のことですが、選手は目隠しをして音のする方向に走っていくため、暗闇の中へ単独で走っていく恐怖を感じます。そして、トップスピードで踏み切った後、目隠しのまま空中に飛び出す恐怖と見えない場所に着地する恐怖に打ち勝たなくてはいけません。同時にコーラーは、選手の不安や恐怖を取り除き、全ての安全を確保する重責を一手に背負います。このように、視覚障害者のフィールド種目は、トラック種目とは違うサポート方法や技術があり、伴走者と違った視点も必要となるのです・・・。

さて、今大会もロンドンパラリンピック参加A標準記録突破者が多数輩出され、私が強化担当している視覚障害者の中長距離種目でも好記録が誕生しました。◆男子5000m:W選手(T11クラス・全盲)/16分10秒26(日本新・A標準突破)、H選手(T12・弱視)/15分23秒79(日本新・A標準突破)、O選手(T12・弱視)/15分46秒94(A標準突破)。◆男子1500m:T選手(T11・全盲)/4分31秒68(自己新・A標準突破)。

この後、国内でロンドンパラリンピックへの挑戦が可能な大会は来年3月以降となりますが、各選手がそれぞれの課題と目標を意識しながら日々のトレーニングを積み重ねていってほしいと願っています。

引き続き、皆様方の絶大なるご声援をよろしくお願い申し上げます。

ロンドンパラリンピックへの道・3

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先日の9月24日(土)から25日(日)にかけて、大分県で身障者陸上競技大会である「ジャパンパラリンピック」が開催されました。この大会は、身障者陸上競技大会の中においては日本選手権大会と並ぶ国内最高峰の大会です。もちろん、来年に迫ったロンドンパラリンピック代表選考大会のひとつにも指定されています。

また、コンディション的には厳しい残暑の影響が懸念されていました。しかし、選手への影響は心配するほとではなく、逆に各種目において日本新記録をはじめ、ロンドンパラリンピック参加A標準記録を突破する選手も多く、大会は大いに盛り上がりました。

特に、車イス男子(T53&T54クラス)の1500mにおいては上位8位までが、ロンドンパラリンピック参加A標準記録である「3分2秒00」を突破する世界的にも価値あるレースとなりました。実は、このA標準記録である「3分2秒00」を突破した選手は、この時点において世界でもたったの2名しかおらず、標準記録の見直し論まで出ていた種目だったのです。

では、なぜ今大会において一気に8名の選手がA標準記録突破となったのでしょうか?

最大の理由は出場選手全員が、「勝負から記録」へと、気持ちと走りをシフトして挑んだからです。至極当然のことですが、仮にこの大会で優勝してもロンドンパラリンピック参加A標準記録を突破していないと、来年のロンドンパラリンピックにはつながりません。ところが、出場選手の誰かがペースメーカーを請け負い、「同じ土俵で勝負している仲間から一人でも多くのA標準記録突破者を出す」と、果敢にレースを引っ張り、更にその後を全員で必ず付いていくレースになったから好記録が誕生したのです。

このようなレースは、一般の国際マラソン大会をはじめ、各種トラックの中長距離レースでは、記録を狙うための一般的な方法です。また、このペースメーカーや一流選手の練習パートナーを経験することで後に世界的な選手へと成長した例は数多く、むしろその流れが世界の常識となっている感もあります。

少し古い話しになりますが、1980年代に世界の中長距離種目を総なめにしていたモロッコのS・アウィータ選手は、ロス五輪5000金メダル、ソウル五輪800銅メダルをはじめ、1500m、2000m、3000m、5000mで世界記録を何度も更新した伝説の選手です。そして、そのS・アウィータ選手の練習パートナーやペースメーカーとして力を付けていった同じモロッコのB・ブータイブ選手は、ソウル五輪1万mで金メダルを獲得するまでに成長したことは有名な話しです。

さて、今回のジャパンパラリンピックの車イス男子(T53&T54クラス)の1500mで、出場選手全員が力を結集することで好記録に結びつけた実績はとても大きいと感じます。それは、今後も5000mや1万mをはじめ、ロードでのマラソンにおいても、日本選手だけのレースでも世界に通用する好記録をマークしていける可能性を示せたからです。そして、今回のようなレース内容を今後も継続していくことで、車イス種目の世界的中心が日本の大会になることも夢ではないと、強く感じたレースでした。

粘りのトラックレース

先日の15日(日)は、熊本県熊本市にあるKKWINGにおいて、身障者の陸上競技大会である「九州チャレンジ陸上競技場選手権大会」が開催されました。この大会に向け、強化合宿を実施してきた日本盲人マラソン協会からも5名の選手が出場しました。

以前に、このブログでも紹介したトラックレースへの参戦です。5千メートルに1名、1万メートルに4名が出場しました。ところが、障害者の陸上競技大会は障害別のカテゴリーが細かくわかれている関係で、各種目とも少人数になるケースが多々あります。

案の定、今回5名がエントリーした種目においても、彼らだけの出場となりました。つまり単調な400メートルトラックをほとんど競い合うこともなく、ただひたすら単独で周回を重ねて走ることになります。それは肉体的にも精神的にも想像以上に辛く、特にメンタル面が大きく影響する長距離レースにおいては、とても厳しい条件になることは間違いありません。

しかし、そのことが逆に選手達を鍛える貴重な実戦練習になることも確実です。私は、それぞれが単独走になる中、どこまで粘り強さを発揮するのかを注視しました。特に、4千メートルから7千メートルあたりまでの最も苦しい局面をどう乗り切っていくのか・・・。コーチとして最も重要な評価ポイントのひとつとなります。実はこの粘り強さを発揮できる選手は、マラソンに移行しても、その持ち味を十分に発揮できるタイプが多いのです(経験上)。

最初に、5名のトップバッターとして加治佐選手(T12)が、5千メートルに出場しました・・・。

◆5千メートル(T12):加治佐博昭/優勝/17分43秒81。

彼の走力からするとやや物足りない記録でしたが、スタートから独走だったにも関わらず終始安定して刻んだ正確なラップは、4月のマラソンにつながります。・・・そして、いよいよ1万メートルです。

◆1万メートル(T11):高橋勇市/優勝/36分03秒80、新野正仁/2位/36分59秒54(自己新記録)。◆1万メートル(T12):堀越信司/優勝/33分56秒76(日本新、大会新、自己新記録)。◆1万メートル(T13):岡村正広/優勝/32分37秒78(日本新、大会新)。

4名とも粘りのある素晴らしい走りを披露してくれました。特に、堀越選手と新野選手の中盤からの粘りは力強く、更に残り2千メートルも驚異の粘りを発揮し、見事な自己新記録を達成しました。

ここでもうひとつ注目する点として、それぞれが34分と37分の大台をラストのキックで突破した点です。このように数秒単位で大台を突破していく走りは大きな自信となり、次のレースに必ず活きてきます。

実は、パラリンピックをはじめ国際大会や国際マラソン大会には、必ず標準記録が設定されており、その記録を突破した選手にしか出場する権利を与えません。特に、パラリンピックやオリンピックのように、4年に一度しか開催されない大会を目指す場合、数秒差で出場の明暗をわけるケースが多くなります。

だからこそ、日々のトレーニングやたとえ小さな大会出場においても、「1秒」にこだわる姿勢が大切になってくるのです・・・。

再び世界へ・・・

先日の14日(土)から1泊2日の日程で、千葉県富津市富津公園にて日本盲人マラソン協会主催の強化合宿を実施しました。昨年の北京パラリンピック日本代表の新野選手、加治佐選手を中心に伴走者も含め13名が集まり、再び世界を目指し第一歩を踏み出しました。

さて、既にご存知のとおり、北京パラリンピックの視覚障害者マラソンは、残念ながら入賞することすらできませんでした。敗因は単純に世界のレベルアップに追いつくことができなかった・・・。と言ってしまえばそれまでですが、他にも障害の程度に応じたクラスわけの統合が影響し、特に障害の重い選手(全盲クラス)が不利になる傾向が強かったことも事実です。つまり必ずしも選手の力が不足していたとか、強化の方法が間違っていたとは言えない部分もありました。

しかし、大切なことは北京パラリンピックの結果を様々な角度から分析し、それぞれについての原因と対策を検討し、実行していくことです(当然のことですね)。もちろん既に、幾つかの対策は実施しており、先日の合宿もそのひとつなのです。更に、今月末の28日(土)からもう一度強化合宿を実施し、3月に熊本県で開催される「九州チャレンジ陸上競技選手権大会(障害者の陸上大会)」と、4月に茨城県で開催される「かすみがうらマラソン大会(盲人マラソンの部)」へ参戦します。

特に、3月の大会はトラックレースです。北京パラリンピック視覚障害者マラソン代表選手全員が1万メートルに出場します。もちろんトラックレースを走ることでスピード強化にもつながりますが、単純にそれだけが目的ではありません。

実は、ほとんどの市民ランナーの方々にも当てはまることですが、マラソンを一度経験すると、年間を通じてマラソンばかり走る方がいます。・・・いかがでしょうか?

これはこれで間違いではないのですが、マラソンばかり走っていると自分自身の身体と気持ちに対し、常に同じような苦しみと刺激ばかりを与えることになります。その結果、レース中の様々な変化に対応する能力が逆に少しずつ落ちていくケースもあります(マンネリ化)。

もう少し別の見方をすると、マラソンとトラックレースはどちらの方が苦しいでしょうか?

どちらも一長一短あるのですが、単純に苦しいと感じるのは、実はトラックレースの方なのです(詳細等については別の機会で)。つまり、トラックレースを通じてマラソンとは違う苦しさや我慢を体感し経験することは、マラソンの苦しみを克服していく上でとても重要な要素となります。その結果、マラソンの記録を短縮する大きなポイントにもなっていくのです。

そして、何より大切なことはこれまで同様、日々の地道な練習を根気強く継続し、少しずつでも確実に前進していくことです・・・。

今後とも皆様の絶大なるご支援ご協力をよろしくお願い申し上げます。

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